引き渡しからわずか1週間、ポルシェ963での初レースに臨むプロトン「1周1周が大事」とティンクネル

 イタリアのモンツァで開催されるWEC世界耐久選手権第5戦で『ポルシェ963』での初レースに臨むプロトン・コンペティションのドライバーは、今週末のレースに関して「とにかく周回を重ねる」ことを目標にしている。

 ドイツのカスタマーチームは、ハリー・ティンクネル、ニール・ジャニ、ジャンマリア・ブルーニが乗り込む顧客向けLMDhカーで、WECのトップカテゴリーにデビューする。

 ウェザーテックカラーに彩られてモンツァに入ったプロトンの“ニューウエポン”は先週、ポルシェワークスドライバーのケビン・エストーレがドイツはヴァイザッハのファクトリーでシェイクダウンを行ったばかり。車両がチームに引き渡されたのは搬入日の7日前だ。

 ティンクネルは、プロトンが事前に独自のテストを行う充分な時間がなかったことを考慮したうえで、今週末の目標は可能な限り走行距離を稼ぐことだと語った。

「1周1周が大切になる」と彼はSportscar365に語った。「最終的には、来年とその先の数年間の基礎を築くために、今年の3レース(モンツァ、富士、バーレーン)があると考えている」

「これはその最初の段階であり、(今季のプログラムの)終わりまでには競争力をつけて(ライバルと)戦いたい。信頼性があるとすれば、それが最初のチェックボックスに入るだろうし、それ以降はボーナスのようなものだ」

 ティンクネルは、プロトン陣営はハイパーカー・デビューに向けて興奮したムードになっている付け加えた。ウェザーテック仕様のポルシェのステアリングを握る3人のドライバーたちは7月5日(水)にモンツァでシートフィッティングを行い、チームは7日(金)から9日(日)にかけて“フェラーリの聖地”で行われる初レースに向けてマシンを準備している。

「間違いなくワクワクしている。やっとここに来ることができたと実感する一方、やや非現実的にも感じる」とティンクネルは述べた。

「それと同時に、レースウイークエンドを迎えるにあたっては、何が起こるかわからないという意味で少々気後れするのも確かだ。これは誰にとっても大きな学習曲線になる」

「日曜日には、『ああ、学ぶことがたくさんあるな』と思うかもしれない。でも、すぐに走り出すことができたと思うこともできる。それが僕たちが望んでいることだ」

「今週末は明らかに学びの3日間になると思う。データをしっかりと集め、1周ごとに確実に実行するつもりだ」

「今年、ル・マンのルーキーと話していたとき、彼らに全ラップをしっかりと走ろうと言ったんだ。マカオのF3と同じように、スピードに乗るためには1周ずつすべての周回を確実こなさなければならない。いまの僕たちも同じだなんだ」

「このクルマは非常に複雑で、厄介なこともたくさんある。小さなセンサーひとつでしばらくの間ガレージに閉じ込められることもあるんだ。でも、僕たちは(この新しいチャレンジに)とても興奮している」

ウェザーテックカラーに彩られた99号車ポルシェ963 2023年WEC第5戦モンツァ6時間レース

■50ページのマニュアルを頭に詰め込む

 マルチマチックのシミュレーターでポルシェ963をドライブしたことのあるティンクネルによれば、プロトンのドライバーたちは「小学生のように復習している」という。

 チームメイトのブルーニもシミュレーターでのテストを実施済み。元ポルシェLMP1ドライバーのジャニが最後にポルシェのプロトタイプカーをドライブしたのは約2年前で、開発プログラム中だった。

「今年、ル・マンと開幕戦セブリングのために、かなりの時間をかけてマシンのシミュレータードライブとサポート作業を行った」とマルチマチックのドライバーは振り返る。

「だから、シミュレーターではそれなりにクルマのことを理解しているのだけど、実戦はまったく違うステップになる」と続けたティンクネル。「僕たちはまるで小学生のように、50ページのマニュアルを読んでは復習してきたんだ」

「ステアリングホイールやブレーキ、ハイブリッドシステムなど、クルマのバランスに影響を与えることができる電子制御的なものが数多くある。車内の中には調整できるものがたくさんあるんだ」

「しかし僕たちは経験が浅い。初めてのことだからね。スピードに乗ること自体が大変だし、そのうえで新しいシステムや手順に慣れる必要がある。それができれば優位に立てるクルマだと思う」

 ティンクネルはモンツァでのハイパーカーデビューを控え、この週末に何人かでも驚かせる走りを見せたいと考えている。

「僕たちにとって重要なのは1周ごとに確実にラップをこなしつつ、すべてのスイッチが何をするためのものなかを理解し、その影響を学ぶことだ」

「正直に言って今週末の僕たちに向けられる期待はかなり低いと思うけれど、理想を言えば、少しでも多くの人たちを驚かせたい」

WECに登場するポルシェ963のカスタマーカーは、第3戦スパでデビューしたハーツ・チーム・JOTAの38号車に続く2台目となる
プロトン・コンペティションの99号車ポルシェ963は、ニール・ジャニ、ジャンマリア・ブルーニ、ハリー・ティンクネルによってドライブされる

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