電話越しの犯人に警告! ATMの会話分析「それ、詐欺です」 高専生が装置開発、実用化目指す 兵庫・明石

開発中のシステムの利用方法を実演する明石工業高等専門学校の学生=明石市魚住町西岡の同校

 「詐欺被害に巻き込まれている可能性があります」。還付金などの名目で犯人に誘導され、現金自動預払機(ATM)を操作しようとすると、警告の音声が鳴り響くシステムを明石工業高等専門学校(兵庫県明石市)の学生が開発している。歯止めがかからない特殊詐欺被害を防ごうと、IT技術を駆使した。人の目が行き届かない無人のATMでも被害を阻止できる可能性があり、実用化に向けて改良を重ねる。(門田晋一)

 システムの装置はマイクとスピーカーをつなげた小型コンピューターで、ATMに外付けする。犯人から携帯電話で指示を受け、タッチパネルを操作しようとする人の会話を自動で分析。「振り込み」「支店」「口座」など約10種類の単語が含まれていると、警告を発する仕組みだ。

 例えば、ATMの前で「現金振り込みを選びました」と犯人に連絡すると、装置が反応。「詐欺被害に巻き込まれている可能性があります」と音声が流れる。数メートル先にも聞こえる音量で、周辺の人だけでなく、犯人にも電話越しに伝わるよう意識したという。

 警告は6種類あり、指定した単語の使用回数に応じて変化する。2回確認されたら「詐欺被害の可能性が50%です」と注意喚起を強め、最終的には「可能性が90%に達しました。兵庫県警察に通報しました」と発する。

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 システムを開発したのは、専攻科1年の辻駿斗さん(21)と久下(くげ)凌生さん(20)、電気情報工学科5年の神山竜亮さん(19)と東史響(あずましおん)さん(19)の4人。家電をネットにつなげて利便性を向上させる「IoT(モノのインターネット)」の技術を学ぶ。

 今年4月、研究室の井上一成教授(61)の提案で開発をスタート。兵庫県警の防犯担当者から被害状況や手口の傾向を聞き取った。犯人に誘導された人と一般の利用者をどう区別するかが課題だったが、さまざまな案の中から、会話のやりとりや言葉の組み合わせで詐欺の可能性を見極める仕組みが採用された。

 「還付金」が「パンプキン」になるような誤変換を防ぐため、「話の流れに合わせて正しい単語を認識できるようプログラミングを工夫した」と解析プログラムを開発した辻さん。今後、人工知能(AI)の活用なども検討しているといい、東さんは「本当に困っている人を助けるため、新しい手口も反映させながら、あらゆるケースに対応できるよう精度を高めたい」と話す。

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 兵庫県警によると、特殊詐欺被害の認知件数は2023年1~4月が前年同期比1.5倍の420件。税金の還付手続きなどを装い、無人のATMなどに誘導する手口が約4割を占める。

 明石高専のシステムについて、県警生活安全企画課の斉藤正樹調査官(50)は「本人や周囲の人たちに詐欺の可能性を伝えられるだけでなく、電話越しの犯人を諦めさせられる効果もある」と期待を寄せる。

 開発中の装置は9月、神戸・ポートアイランドで開かれる西日本最大級の展示会「国際フロンティア産業メッセ」に出展される予定だ。学生らは県警の協力を得ながら県内の金融機関での社会実験を目指す。

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