節目の夏、無心で大役全う夏の高校野球 大会歌初の男子独唱者 小泉さん(大田原)

大会歌を独唱する大田原の小泉さん=県営(代表撮影)

 静寂に包まれた球場に低く、重厚感のある声が響き渡る。全国高校野球選手権記念栃木大会歌初の男子独唱者として「栄冠は君に輝く」を歌い上げた大田原高3年の小泉謙晶(こいずみけんしょう)さん(17)。約1分20秒間の独演に、千人を超える観衆はくぎ付けとなった。

 歌うことが大好きだった。「歌詞の受け止め方がその日の気分次第で変わるのが面白いから」という。中学3年まで柔道を続けたが、高校では「歌を楽しみたい」と迷わず合唱部に進んだ。

 今回の独唱者オーディションは2度目。昨年も顧問の折原佑紀子(おりはらゆきこ)教諭の勧めで挑戦した。しかし結果は落選。「歌詞の内容や思いを乗せ切れなかった」と悔いが残った。だからこそこの1年で表現力を磨き、24分の1の競争を勝ち抜いてみせた。日が落ちた後のグラウンドで、泥にまみれて白球を追う野球部員の姿も支えになった。

 そして迎えたこの日の開会式。バックネットの前で59チームの入場行進を見守った。「男子が大会歌を歌ったら、どう思われるのだろう」。不安がなかった訳ではない。それでも刻一刻と自身の出番は近づいていた。

 緊張で押しつぶされそうになった時、聞こえてきたのは「大田原高校」のアナウンス。同級生の顔が目に入り、「やるしかないと吹っ切れた」。再び力をもらった。

 集中力を高め、「選手が奮い立つように」と無心で歌い切った。万雷の拍手が鳴り響いた。「これまでで一番気持ち良く歌うことができた。101点の出来」だった。

 105回目を迎えた球児たちの夏。澄み渡った青空の下で大役を全うした。

大会歌を独唱する大田原の小泉さん=県営(代表撮影)

© 株式会社下野新聞社