<社説>安倍元首相襲撃1年 正義覆す暴力を拒否する

 安倍晋三元首相が、選挙応援演説中に銃撃され亡くなった日から1年を迎えた。参院選挙最終盤の凶行は国民に強い衝撃を与えた。今年4月には衆院補欠選挙の応援のため和歌山県を訪れていた岸田文雄首相に向け、筒状の物が投げ込まれ爆発した。 現首相や元首相を標的とした蛮行は社会に衝撃を与えた。いかなる理由があろうとも暴力で言論を封ずる行為は断じてあってはならない。

 軍の青年将校らが参加し、首相ら主要政治家を狙った五・一五事件や二・二六事件は日本の重大な転換点となった。事件以降、武力を持った軍部が政治権力を掌握した。その結果、戦争突入と敗戦という悲劇を招いた。

 これらの歴史にも学びながら、正義と民主主義を覆す暴力やテロ行為を拒否するという決意を新たにしたい。

 安倍氏の事件は、自民党を中心とした政界と、信者に対する多額献金の強要など反社会的行為が問題となった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との深い関わりを浮き彫りにした。

 被告は旧統一教会の「宗教2世」で、母親の信仰と1億円にも上る多額の寄付によって家庭は貧困にあえいでいた。旧統一教会との因縁が指摘されてきた岸信介氏を祖父に持つ安倍氏に恨みを持ち、犯行に及んだとされる。

 事件を契機に、閣僚を含む自民党国会議員や同党の地方議員に至るまで選挙支援などのかたちで旧統一教会と接点を持っていたことが判明した。旧統一教会の影響力は一部野党にも広がっていた。自民党は旧統一教会との関係を絶つと明言した。事件から1年を経て、方針が徹底されているのか説明してほしい。

 一方、政府は宗教法人法に基づく旧統一教会への解散命令を視野に「質問権」の行使を重ねている。同時に多額献金の被害者に対する救済措置も求められている。政府、国会は対応を急ぐべきだ。

 憲政史上最長を誇った安倍政権は強いリーダーシップを掲げ、さまざまな施策を進めた。政権が放つ光が強い分、深い影を落としたことも事実である。国民の間に貧富の差が広がったことは、その最たるものであろう。多くの国民は富の再分配が機能したとは考えていない。

 沖縄では基地の整理縮小を求める県民の訴えとは逆に、基地機能の固定化・強化に向かった。辺野古新基地建設が普天間飛行場返還の「唯一の解決策」との立場を崩さず、沿岸部埋め立てを強行した。

 安倍政権下で本格化した「戦争ができる国づくり」は、現岸田政権で戦後日本の防衛政策の基本であった「専守防衛」を逸脱する安保関連3文書の閣議決定に至った。この方針に基づく軍備増強が沖縄で進んでいる。

 「安倍政治」とは何だったのか。国民や県民にいかなる影響を及ぼしたのか。多角的な検証が求められる。

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