ツバメ守る「逆さ傘」がSNSで大絶賛も…商業モールが明かす複雑胸中「営業支障やお客様への糞被害があるのも事実」

(写真提供:せんちゅうパル)

大阪北部の北摂地区に位置する千里ニュータウン。北大阪急行電鉄と大阪モノレールの千里中央駅に直結する大型商業施設「せんちゅうパル」(豊中市・新千里東町)での、“ある取り組み”が注目を集めている。

大阪メトロと御堂筋線に直通する北大阪急行電鉄の千里中央駅は、1日あたり約72,000人(2021年)の乗降客が利用するという。地下1階~4階まで計145店舗ものテナント数を誇る同施設は、平日は通勤通学で多くの人が往来し、休日も家族連れでにぎわう場所だ。

注目を集めた発端は、あるTwitterユーザーが6月下旬に投稿した写真と動画。天井から逆さまにぶら下げられた水玉の赤い傘に、4羽のツバメが止まっている様子が収められていた。すぐ近くのダクト上には雛がいる巣があり、“逆さ傘”がツバメを守る役目を果たしているというのだ。

この取り組みに、《これはかわいすぎるよ》《センスいいし、賢いなこれを設置した方》《素敵なモールですね》と絶賛の声が続々。また、同じ場所で目撃したと報告するユーザーもいた。

ツバメたちを守る“逆さ傘”は、どのような経緯で設置されたのだろうか? 本誌が同施設を運営する「ザイマックス関西 せんちゅうパル運営統括事務所」に取材を申し込むと、担当者が詳細を語ってくれた(以下、カッコ内はすべて担当者)。

担当者によると、“逆さ傘”の活動をはじめたのは2018年の春だという。

「2階のパン屋さんの照明に巣が作られたことがきっかけでした。トレーも設置できず、トイレ入口のためバリアフリーの観点からコーンを立てることもできず、苦肉の策で思いついたのが“逆さ傘”でした。せっかくならビニール傘よりも見栄えのよい傘をと思ったので、子どもサイズの可愛い黄色い傘を買って設置しました。それ以来、傘が最適な場所には設置するなどしています。今年は、赤の水玉の傘に4羽の雛が並び、特にかわいい瞬間が撮れたのかもしれません」

■“ツバメを守るだけじゃない”担当者が明かす取り組みの理由

「せんちゅうパル」が開業したのは、大阪・吹田市での「日本万国博覧会」開幕を目前に控えた1970年3月(開業当時は「千里サンタウン専門店街」)。今年で53年目を迎えたが、「ツバメがいつから『せんちゅうパル』に巣を作り始めたか、詳しいことは資料も残っておらず定かではありません」とのこと。

担当者はそう前置きした上で、「ツバメには帰巣本能があること、そして大きな鳥から守ってもらうために人間が多くいる商業施設をツバメが好むことなどの理由で、毎年子育てをしに帰ってくるようです」と語る。

Twitterでは「ツバメに優しい」と同施設の取り組みを絶賛する声が相次いでいるが、そもそもの目的は別のところにあったようだ。

「実は保護傘というよりは、第1の目的はお客様や商品に糞被害がでないためと、当施設の美観維持の取り組みです。傘の中も容易に掃除ができるように、紙を敷き、糞が溜まれば紙の交換をしております。

2023年度は現時点(7月5日)で、合計4本の傘を設置しました。全ての巣に逆さ傘を設置しているわけではなく、営巣し産卵された場所に応じて対応は様々です。傘を設置できない場所にはトレーを、トレーも設置出来ない場所にはカラーコーンで注意喚起した上で、糞除けシートを設置しております」

こうした工夫を施す理由は、半屋外空間に各テナントが軒を連ねて集まる「オープンモール」であることが大きく影響している。

「鳥獣保護管理法の観点からもツバメを保護していかなければならない反面、『せんちゅうパル』がオープン型かつ駅直結の商業施設であるため、皆様に快適に過ごしてもらう必要があります。当施設はオープンモールで、野鳥の出入りを完全に防ぐことが出来ません。駅直結で様々な方が利用される施設ですので、ツバメを喜んで見守ってくださる方や、糞被害や鳥が苦手な方もいらっしゃいます。

そのため、高所で日々のメンテナンスが行き届かないところや、エスカレーター回りには鳥よけを設置するなど対策を取っております。また、施設の防災システムに営巣されると正常に働かなくなる可能性があるなど、防災の観点から一部の場所は営巣を阻止しなければならない面もあります」

■利用客やテナントからは賛否両論…担当者が明かした複雑な胸中

そうした背景から発案された“逆さ傘”だが、利用客やテナントからは賛否両論だという。

「お客様の反応としては、『ツバメの子育ての様子に癒され、励まされる』という声や『初めてツバメを見て、その流線飛行に驚いた』『いつまでも見守ってほしい』という声もありますが、一方で『糞が自分にかかりそうになった』『急角度かつ高速で飛んできて危ない』『ツバメを排除してほしい』などの声も頂いております。

テナントからも、『店舗の看板に巣が作られて迷惑だった』『糞が落ちたりツバメが飛び交っていたりして、巣が作られた店の一角には商品を並べてもお客様が近づかない』『商品に糞がかかって売り物にならなくなった』とおっしゃる方と、『ツバメは糞が困るけれど、お客様が集まって喜んでくれるから許している。千里中央の活気に繋がったらいいと思う』という方とで意見が分かれています」

そのため、担当者はTwitterでの反響に「運営として、苦肉の策で行ったことが、ここまで評価いただけたことに、ありがたく嬉しい反面、正直に申し上げると、コメントし難い面もあります」と複雑な心境を明かし、こう続ける。

「ツバメの子育ての様子が、『せんちゅうパル』のお客様や今回のように多くの皆様の憩いと励ましになっていることは大変喜ばしいですが、一部は営業支障やお客様への糞の被害、防災設備の問題などもあるのは事実です。今後も、施設管理者としてテナントと施設一体となって、最適なツバメとの関わり方をしていく所存です」

人と動物がともに暮らす「共生社会」の実現に向けて、日々たゆまぬ努力が続けられている。

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