「戦争には参加できない」ロシア軍への協力拒否 迫害逃れシリアから来日も難民認定のハードル高く

難民への認定を求めて、広島で申請手続きを進めている男性がいます。祖国で迫害を受けて、日本に逃れてきた男性を取材しました。

広島市にある出入国在留管理局に、難民申請の手続きをしているシリア人の男性の姿がありました。この日は難民調査官による面接を受けに来ました。祖国シリアでの内戦や迫害から逃れるため、2022年11月に日本に入国しました。

シリアでは2011年に内戦が勃発。シリア政府軍の攻撃によって家族と暮らしていた家が破壊されました。さらに2022年春、母国・シリアが支持しているロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。

シリア人の男性
「とにかく感じるのは怒りです。自分がシリアで経験した痛みや苦しみが、またウクライナで起こることは耐えられません」

ロシアを支持するシリア。大学時代に6年間、ウクライナに留学した男性は、ロシア軍からシリア人傭兵の通訳として、戦争参加を要求されたといいます。

シリア人の男性
「シリアではたくさん人たちがロシア軍の傭兵になりましたが、留学して学び、友人を得たウクライナに敵対する行為はできませんでした」

「戦争に参加することはできない」と、ロシア軍への協力を拒否しました。その後、シリアの治安当局から嫌がらせを受けるようになり、公務員を失職しました。

難民認定数は過去最多も認定率はわずか2% 「完璧な証明」のハードル高く

「戦争に参加することはできない」と、ロシア軍への協力を拒否した男性ですが、その後、シリアの治安当局から嫌がらせを受けるようなりました。そして、職を失いました。

シリア人の男性
「シリアの治安当局がロシア軍と協力するようになり、容赦のないすさまじい殺し方をしているのをニュースで見ました。『私も殺されてしまうかもしれない』という恐怖をより現実的に感じるようになりました」

「シリアではもう生きられない」と、幼い娘など家族を残して「短期滞在」の在留資格で日本に入国しました。現在は、難民申請の期間中に交付される「特定活動」の在留資格で、働きながら生活しています。

日本の難民認定数は2022年の1年間で202人と、過去最多を記録しました。しかし難民認定率はわずか2%。G7のほかの国と比較しても、低いのが現状です。理由の1つは、難民であることを証明するハードルの高さです。

広島市立大学 吉田晴彦教授
「(難民条約では)難民であることを完全に証明できなくても、かなり妥当性がある説明をすれば受け入れましょうというのが原則。だが、日本の場合は完璧に証明しなければ受け入れないという現実だった」

日本では母国で迫害を受けたことを証明する客観的な証拠を求められる場合もあります。実際に、シリア人の男性は弁護士の勧めで、ウクライナの大学の卒業証明書を提出しました。

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によりますと、現在、世界には1億人を超える難民や避難民がいるといいます。しかし。「日本では、難民受け入れを社会にとってのリスクと捉える傾向が根強い」と吉田教授は指摘します。

広島市立大学 吉田晴彦教授
「政治も社会も(難民受け入れに)消極的になっている。関心を持とうとして来なかったというのが大きな問題。世界には本当に困っている人たちがたくさんいる。実はその人数がすごく増えている。日本の人口をはるかに超える人々が窮地に追い込まれている現実があるのだと心とめておいてほしい」

日本に来て半年あまり…。男性は、シリアで暮らす家族を思わない日はありません。

シリア人の男性
「12年間続いた戦争のためシリアは未来が奪われ安全も希望もありません。難民認定を受けて、叶うのであれば子どもたちを連れてきて一緒に暮らしたいです」

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