ダブルヒガシ「見せ方が分かってきた」…コワモテを武器に飛躍

現在、大阪の劇場「よしもと漫才劇場(通称:マンゲキ)」に所属する若手芸人のなかでも、舞台上でトップクラスのウケを誇っている漫才コンビといえば、ダブルヒガシ(東良介、大東翔生)である。来る7月9日放送の『第44回ABCお笑いグランプリ(以下:ABC)』にも決勝戦へ駒を進め、昨今の抜群の実績から「優勝候補」ともされている。

お笑いコンビ・ダブルヒガシ(左から大東翔生、東良介)

クセの強いキャラクターに、独特なリズムやワードセンスが際立つネタ。そしてともに30歳ながらどこか昭和感漂う「コワモテ」だが、舞台上やテレビなどで魅せる「愛くるしさ」が、彼らの魅力のひとつ。そんな注目株に、今感じる世間の反響や『ABC』への意気込み含め話を訊いた。

■ あえて怖いイメージに寄せていこうって(大東)

──ダブルヒガシはネタのおもしろさはもちろんのこと、コワモテで近寄りがたさを感じさせながら、実はめちゃくちゃ物腰が柔らかい。最近は、そういったギャップがより感じられるなと思うのですが。

大東:昔よりはそうかもしれないですね。若かったときは自信がなかったから顔も強張ることが多くて、余計にそう見えていたんだと思います。満席のときとか「間違えたらあかん」って、どんどん漫才が内向きになっていましたし。でも今は、ネタを飛ばしても「まあ、ええか」みたいに考えられる余裕が出てきました。もちろんスベるのは嫌ですけど、以前に比べたらそのダメージも少ないです。

東:意識して柔らかさを出しているわけではなく、顔が怖いだけで普通というか、ただ明るいヤツらなんで(笑)。舞台って大体、ネタ時間は5分とかじゃないですか。そのなかで伝えられる人間性って少ないけど、ずっとやってきて、その積み重ねで自分らのことを分かってもらえてきた気がします。

大東:見た目も今風じゃないですし、僕の声もあって、怖く見られることはしゃあないと思ってました。それやったらあえて怖いイメージに自分らの方から寄せていって、その反動を使いながら、本来のかわいらしい部分へと持っていったろうと。さや香の新山さんにもアドバイスしてもらって、舞台衣装を白のスーツにしたんです。僕が普通の紺のジャケットとか着ても、似合う似合わんというより「存在感」がなくなるんですよ。それが一番嫌やったんです。

ダブルヒガシ【よしもと漫才劇場 8周年記念SPネタ】

東:そうそう。顔の怖さとかは変えれへんから、だったらそこを活かした方が良いなって話になりました。で、「かわいい」より「かっこいい」を目指したんですけど、やっぱりやっていくうちに中身がバレてきて・・・。

──最近では、見られ方が大分変わられたんじゃないですか?

大東:「ワーキャー」とか言われるようになってきて(笑)。今の自分らそういう状況はホンマに意味分からんけど、ただ何事もちょっとはそういう要素があった方が良いかなと思いますね。

■ 「ぐりとぐら」みたいな格好で…スベり続けた2年

──見た目的には昭和っぽさもありつつも、中身は「THE 現代っ子」ですよね。お2人がパーソナリティを務めるポッドキャスト番組『はちくちダブルヒガシ』でも、「怒られたらすぐに辞める」とおっしゃっていました。

東:僕は怒られても意外と「なんやねん、こいつ」って感じて頑張れますけど、大東はまさにそういうタイプですね。

大東:僕はすべてから、逃げて、逃げて、逃げてきた最果てにあったのが芸人やったんです。大学、バイト、空手、ボクシング、塾とか、ちょっとでも嫌になったら辞めてきましたから。芸人も今思うと、辞めてた可能性は全然ありましたね。でもNSCのとき、周りにそこまで「おもろい」と感じるヤツがいなかったんで「これやったら続けられるな」と。

「ボケツッコミは五分五分のときもありますけど、核の部分では僕がボケで東がツッコミっていうのは大事にしているつもりです。お互いに得意なので」と語る大東

東:それは2人で言ってましたね。ただNSCを卒業してから、コウテイのネタを初めて観たとき「うわ、おもろっ!」って衝撃を受けて。めちゃくちゃアホなことしてるんですけど、言葉にできないおもしろさがあって。

大東:コウテイは僕も「こんなヤツらおるんや」ってなったんですけど・・・そんなことよりも、自分らが全然あかんかった。劇場に出られるようになってからは2年間くらいずっとスベってて、そこで心が一回折れましたね。ネタは今と比べてそんな変わってないんですけど、もちろん漫才も下手やったし、あと格好もキモかったですから。

東:僕が青のジャケットを着て、大東が赤で。『ぐりとぐら』みたいな感じ(笑)。

大東:東はもっと太ってましたし、僕は髪の毛が尖ってて。そのときに、「これは一生ウケへんかもな」って焦りましたね。当時はネタ以外のこと、衣装とかって、どうしたら良いかなにも分かりませんでしたから。赤青ジャケットの時代は1回もウケてへんと言っても過言ではないです。

『ABC』で優勝候補に挙げられることについて、「知ってくれているっていう良い面もあるんですけど、ない方が思い切ってやれるので…ちょっとイヤですね(笑)。でも期待されるのはありがたいです」と東

──そういう意味では先ほどの「あえて怖いように見せる」「白の衣装」の話は、見せ方をちゃんとブランディングができるようになってきた証しなんじゃないですか。

大東:そうですね。見え方、見せ方の重要性ってめちゃくちゃ高いです。自分はなにが得意か、それをどう見せるかとか。そうやって色んなことをふるいにかける作業はかなりやりました。

東:「こういう見た目やから、こういうことを言いそう」と思わせることが大事で、それができるようになったら、次に予想を裏切ることもできる。そうなるとやっぱりウケるようになりますよね。昔は「おもろいことを言ったり、やったりしてたらええんやろう」だけで変な格好した時期もありましたけど、そうじゃないなって気付きました。

■ 『ABC』ラストイヤー、悔いがないように(東)

──その結果が『ABC』など各賞レースの結果にもつながっているでしょうし、『M-1グランプリ』にも良い影響を与えそうですね。

大東:去年の『M-1』で、勝つには「ウケるだけじゃない」っていうのは感じましたね。ウケてたんですけど、どこかで「どうやろな」っていうのもあって。だから、落ちたときに納得いく点もあったんです。でも今回の『ABC』は決勝に行く確信がありました。今は「これで落とされたらホンマにムカつくわ」っていう100%にもってこれるようになったというか。その感覚は、去年くらいから意識するようになったと思います。

高校で出会った同級生コンビ。2023年は『第12回ytv漫才新人賞』で優勝、『上方漫才大賞』新人賞でも決勝へ進出

──「優勝候補」との声も挙がっている『ABC』について、改めて意気込みを伺いたいです。

大東:今回、大阪の男漫才師が全滅したんで、代表として優勝したいっていうのはあります。っていうか、今の仕上がってる状態をほんまは1年前に持って来なあかんかった。もしそれが出来ていたら、マジで関西の賞レースを全部取れてたと思います。そう言ってもしゃあないですけど、今回はとりあえず決勝にいくことを目標にしてたんで、このままの勢いで。

東:初めてテレビの賞レースに出られたのが2年前の『ABC』やったんですけど、めっちゃ緊張して、全然良くなかったんです。でも大東が言うように今は「ちゃんとできるようになった」と示せる気がします。『ABC』は今回がラストイヤーなので、悔いがないようにしたいですね。

『第44回 ABCお笑いグランプリ』は7月9日、ABCテレビほか、ABEMAでも生配信される。

取材・文/田辺ユウキ 撮影協力/喫茶オランダ

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