名もなき雨に要注意

 古人は天体や天候に趣ある名をよく付けたものだと、しばしば思う。7月6日に降る雨を「洗車雨(せんしゃう)」、7日に降れば「洒涙雨(さいるいう)」と呼ぶ。ともに七夕に由来する▲牽牛(けんぎゅう)は七夕の前日、年に1度の逢瀬(おうせ)に使う牛車(ぎっしゃ)をせっせと、心を込めて洗い、その水が天から落ちて「洗車雨」になる。牽牛と織女の2人が別れを惜しむ、または会えずに悲しむ涙が「洒涙雨」で、涙を洒(すす)いで(洗い落して)降るとされる▲6日は梅雨の晴れ間が広がり、七夕も曇り空で、名に趣のある雨はなかった。知る限りでは呼び名もなさそうだが、予報ではきょう8日からしばらくは雨のマークが並ぶ▲気付いたら梅雨も末期に来ている。列島では、積乱雲が連なって同じ所に長い時間、猛烈な雨をもたらす「線状降水帯」によって土砂崩れが起きた。ここに並べるまでもなく、近年は今の時季に何度も、各地で豪雨に見舞われている。この先の“名もない雨”に油断ならない▲平清盛の娘、建礼門院が詠んでいる。〈彦星の行き合ひの空をながめても 待つこともなき我ぞ悲しき〉。「行き合ひ」は出会うこと。恋仲の平資盛(すけもり)が壇の浦で没し、逢瀬のかなわない身を嘆いた一首という▲天災に見舞われ「待つこともなき」人が空を仰ぐことになりませんよう。遅ればせながら、天に願い事をする。(徹)

© 株式会社長崎新聞社