「世界にアピールできる」但馬牛飼育が世界農業遺産 関係者ら喜びの声 資源循環と血統継承へ決意新た

母牛や子牛が暮らす牛舎=県立但馬牧場公園

 兵庫県内で初めて、国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産に認定された美方郡の「伝統的但馬牛飼育システム」。認定を目指して活動してきた香美町、新温泉町やJAたじまなどでつくる推進協議会が7日、香美町役場で会見し、両町長らが「今後は世界に但馬牛をアピールできる」と快挙を祝った。(長谷部崇、斎藤 誉)

 農耕牛としての但馬牛改良の歴史は古く、美方郡では江戸後期には「蔓(つる)牛」と呼ばれる家系群が形成された。19世末には血統登録「牛籍簿」が整備され、全国の和牛改良の先駆けになった。

 推進協議会の会長を務める浜上勇人・香美町長は「但馬の生活に溶け込んだ飼育システムが評価され、美方郡だけでなく、但馬や県全体の畜産振興にとって追い風になる」。副会長の西村銀三・新温泉町長も「畜産農家の皆さんにお礼とおめでとうを伝えたい」と祝福した。

 農耕牛としての但馬牛は「農宝」として大切にされたという。牛を草原に放牧し、あぜ草や稲わらを餌で与え、牛ふん堆肥を田畑に還元する伝統的な飼育方法は「地域資源を循環させる持続可能なシステム」として評価された。

 新温泉町の上山高原でも古くから農耕牛を放牧。昭和中期ごろまで地元農家は冬場の牛に与える干し草をつくるため、草原づくりに関わった。NPO法人「上山高原エコミュージアム」の馬場正男代表理事(71)は「美方郡では昔から牛が農家の生活を支え、農家も牛を大切にした。そうした長年の営みが実を結んだ」と喜ぶ。

 現在、美方郡で飼育される繁殖雌牛(母牛)は約2200頭。新温泉町丹土の但馬牧場公園但馬牛博物館の野田昌伸副館長(67)は今後の課題として、「限られた頭数で血統を守っていくことは大変なこと。できる範囲で伝統的な飼育方法による循環の仕組みを守っていくことも大事」と指摘する。

 次代を担う畜産農家からも喜びの声が相次いだ。香美町の畜産農家小林一樹さん(34)は、近くの「うへ山の棚田」で休耕田を耕作する住民グループ「俺たちの武勇田」のメンバーで、稲わらを牛の餌や寝床に使用。「これからも昔からの飼育方法を守り続けたい」と胸を張る。2年前に新温泉町で新規就農した奥沢佑太さん(29)は「但馬牛が世界に認められて誇らしい。但馬牛のブランドを守れるようがんばりたい」と話した。

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