長崎・小6女児いじめ自殺から10年 母「昨日のこと」も思い裏腹

女児が生前、大切にしていたトランペットはきれいに輝いたままだった=長崎市内

 時間の経過を物語るように、ケースのふたが固く密着してなかなか開かなかった。中から出てきたのは女児が生前、大切にしていたトランペット。きれいに輝いたままだった。「時々、吹いているのかな」。母親(49)はそう言って、3本のピストンに指を重ねた。
 2013年、いじめを受けていた長崎市立小6年の女子児童=当時(11)=が自殺した。女児が自殺を図ってから7日で10年となった。
 今月初め、女児の自宅で母親に思いを尋ねた。10年たっても「心の中は何も動いてない」という。まだ「昨日のことのよう」で、乗り越えるとか、そんな感情もない。年月は子どもの成長で実感するもの。だから、10年は長くも、あっという間とも感じない、と。
 当時の感情や目の前の事象の記憶は何一つ失っていない。娘が向こうの世界で一人はかわいそうだと思い、棺おけを並べてあげなければ、と考えていた。今でも死ぬのは怖くない。「だって、向こうにいけばあの子に会えるから」
 踏みとどまれたのは、昔から変わらずそばで支えてくれる人たちのおかげ。当時、女児が所属していた「金管クラブ」の仲間や同級生の保護者が一緒に泣き、怒り、学校側と闘ってくれた。小学校最後の夏休み。大人たちが連日、学校に抗議に出向く一方、子どもたちに我慢させることになったが、子どもたちは言ってくれていたという。「○○ちゃんのために自分たちもできることをしたい」
 そんな同級生たちは今年大学4年の年。夢に向かう近況を聞くと心から応援したいと思う半面、うらやましくもある。女児が目指していたのは看護師。母子で話していた将来では、今ごろ、福岡の学校に通っている、そのはずだった。
 毎日の就寝前、日記の中で娘と対話を続けている。たわいない出来事を報告し、質問してみるが、どんな答えを返してくれるかと想像することしかできない。だから、いつも最後は「きっと」。答えに窮する日は少なくない。
 当時、市学校問題外部調査委員会(第三者委)は「上靴を隠された」などをいじめと認定し、「(いじめと自殺の)直接の因果関係の認定は困難だが、関連を有する」と結論づけた。
 母親に「10年間」をあらためて尋ねた。いじめた側に対しての思いは「特にない」が、あの日起きたことを「忘れさせたくはない」と言った。当時の校長と担任教諭はこれまで一度も娘の前で手を合わせてくれていないという。10年たった今だからこそ、本音を話してほしいと思う。
 「あの時、何を守ろうとしたんですか」


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