社説:安倍氏銃撃1年 自民と教団の関係、未清算だ

 安倍晋三元首相の銃撃事件から、きょうで1年になる。

 政界で大きな影響力を有した元首相が国政選挙の応援演説中、聴衆の前で銃弾に倒れた事件は社会に強い衝撃を与えた。

 断じて許されない蛮行であり、言論を封じる暴力の根絶への決意を改めて共有したい。

 殺人罪で起訴された山上徹也被告は、母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に多額の献金を続け、家庭が崩壊したとの強い恨みを動機に挙げた。

 教団の法外な献金集めなどにあえぐ信者家族らの深刻な実態が次々に浮かび上がった。

 さらに、安倍氏をはじめ自民党を中心に数多くの議員と、教団との不透明なつながりにも問題が広がった。

 国会で不当な寄付勧誘の防止法が成立したが、教団の反社会的活動や政治との関係の解明、再発防止の手だては不十分なままだ。うやむやの幕引きでは悲劇が繰り返されかねない。

 文化庁は、教団の解散命令請求を視野に、宗教法人法に基づく質問権を初行使し、法令違反などの確認をしている。

 先月までに6回の質問を重ねるも強制力のない調査のため、時間稼ぎに費やされる手詰まり感も否めない。行政として法に基づいて遅滞なく、厳正な判断を示してもらいたい。

 この間も、旧統一教会は寄付の意思確認、韓国への送金停止などの改革を標ぼうし、活動を続けている。

 教団トップの韓鶴子総裁は先月の集会で「日本は戦犯国家で、賠償しないといけない」と発言し、韓国への送金を正当化し続けているという。「合同結婚式」への現金持参などのルートも温存しているとみられ、徹底した実態解明が不可欠だ。

 他の教団を含め、信者の親の下で困窮や孤立、体罰などに苦しむ「宗教2世」の告発が相次いでいる。被害の抑止と救済に手を打たねばならない。

 旧統一教会と政治との関係は深い霧が晴れず、国民の政治不信は深まっている。

 自民は「党として組織的な関係はない」と弁明する一方、自己申告の調査だけでも安倍派を軸に半数近い国会議員につながりが判明した。

 岸田文雄首相(党総裁)は「過去を反省し、関係を絶つ」と宣言した。だが、選挙で教団票を振り分けていたと元議員の証言のある安倍氏についても「本人が亡くなり、限界がある」とし、客観的な調査自体を放棄している。

 教団の名称変更に、自民議員が関与した疑惑も残されたままだ。

 反社会的と問題視されてきた教団と、どういう経緯と関係性でつながったのか。政治をゆがめていないか。

 地方を含め全議員・組織でつまびらかにしなければ、関係を清算したとはいえまい。岸田氏の指導力が問われる。

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