手堅い補強もいいんだけど…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©Atlético de Madrid]

「あまりワクワクしないのは年齢のせいかな」そんな風に私が溜息をついていたのは金曜日、アトレティコ入団プレゼンラッシュの最終日、アスピリクエタ(チェルシーとの契約を解消)の姿を見て来た時のことでした。いやあ、丁度、同日は1時間違いでレアル・マドリーもこの夏、5人目の入団プレゼンをバルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場でやっていたんですけどね。この猛暑の中、とてもメトロの駅から30分の道のりを歩く気にはなれず。選手のユニ姿お披露目に一般マスコミは入れないのは同じだし、だったらと、オフシーズンはコンサート会場化、ピッチに芝がなくても、駅前にあるメトロポリターノを選んでしまったんですが、内心、トルコの若きアタッカー、18才のアルダ・ギュレル(フェネルバフチェから移籍)に興味を覚えていたのは決して私だけではない?

いやまあ、彼が宿敵バルサも狙っていた逸材ながら、契約破棄金額は1750万ユーロ(約27億円)とお手頃だったため、太っ腹なお隣さんは色をつけて、2000万ユーロ(約31億円)で獲得したとかもあるんですが、家に着いた頃に始まった記者会見をレアル・マドリーTVで見ていても、やっぱり初々しいのがティーンエイジャーの売り。それでもすでにトップチームで51試合9得点、トルコA代表でもデビューしているだけに自信があるのか、「競う準備はできているし、自分のポジションをゲットするつもりだ。監督ともよく話して、どこで使ってもらえるのかも聞いた。レンタルで別のチームに行くことはボクのプランにはない」と話していたんですけどね。

大体がして、この夏のお隣さんの補強選手は33才のCFホセル(エスパニョールからレンタル移籍)は別として、フラン・ガルシア(ラージョから出戻り)、ブライム(3年間のミラン・レンタル移籍から帰還)は23才、移籍金1憶ユーロ(約160億円)越えの大型MFベリンガムなど、20才になったばかりとかなり若め。ギュレルもビニシウスやロドリゴの2匹目のドジョウを狙った青田買いとも言えなくありませんが、それと真逆なのがアトレティコなんですよ。ええ、金曜にマドリッドの1部チームで一番乗りとなるプレシーズン練習開始を控え、水曜から連日プレゼンが始まったんですが、これがまた、28才の左SBハビ・ガラン(セルタから移籍)、27才のCBソユンジュ(レスターと契約終了)、そして33才のマルチDFアスピリクエタ(チェルシーとの契約を解消)といった具合ですからね。

おまけに唯一、若い21才のCBモウリーニョ(ラシンクラブ・デ・モンテビデオから移籍)など、月曜から始まるロス・アンヘレス・デ・サン・ラファエル(マドリッドから1時間の高原リゾート)での地獄のキャンプで様子を見てから、レンタル移籍で修行に出るかどうか、シメオネ監督が決めるため、まだプレゼンの日付も決まっていないという有り様なんですが、年齢以上に華に欠けるのは、全員が守備要員だったせい?とりわけ下位カテゴリーのコルドバやウエスカで揉まれ、地道にエリートへの階段を上がってきたハビ・ガランなど、「ESTAR AQUÍ ES UN SUEÑO. UN PREMIO A TANTOS AÑOS DE TRABAJO/エエスタル・アキー・エス・ウン・スエニョ。ウン・プレミオ・ア・タントス・アーニョス・デ・トラバッホ(ここに来るのが夢だった。何年もの努力へのご褒美だね)」と言っていたため、昔よくいた、アトレティコに到達しただけで、やりきった感に浸ってしまうタイプじゃないことを祈りたいんですが、さて。

その一方で今季はグリーズマンが背番号7を取り戻すことが発表されながら、昨季後半はチェルシーにレンタル移籍していたせいか、今度は何番になるかわからないジョアン・フェリックス、6月いっぱいでバルサの買取オプションが消滅したカラスコら、先行きのわからない選手がいるため、前線の補強は保留になっているアトレティコなんですが、弟分チームたちにも今週は新加入選手がポツポツとお目見え。日曜からコリセウム・アルフォンソ・ペレスのすぐ側にある練習場でプレシーズンをスタートさせるヘタフェは水曜にFWチョコ・ロサーノ(カディスと契約終了)、金曜にはGKダニエル・フサト(イビサからレンタル移籍)、MFセルジ・アルティミラ(サダベルと契約終了)の入団プレゼンがあったんですが、これで彼らも来週月曜には、ボルダラス監督の地元に近いオリバ(バレンシアに近い地中海沿岸リゾート)での第1次キャンプに参加できることに。

そしてフランシスコ新監督のプレゼンが今週火曜と遅かったせいか、未だにプレシーズン開始日の情報が伝わってこないラージョは水曜に34才のCBアリダネ(オサスナと契約終了)の入団発表があったんですが、これは昨季まで守備の要だった28才のカテナが入れ違いでオサスナに行ってしまっただけに、ちょっと損した気がしなくもなし。サベリッチも契約終了で退団し、現在、チームにはCBがムミンしか残っていないため、レンタル移籍が終わり、アラベスに一旦、戻ったルジューヌにも帰ってきてほしいところですが、ホント彼ら、いつから練習するんでしょうかね。

まあ、そんなことはともかく、未だにバケーションに入れていない若い選手だけのチームの話もしておかないといけません。そう、それはU21ユーロ参加のスペイン代表で、水曜には準決勝でウクライナと再戦。同じブカレストでも今度は舞台をステアウア・スタジアムに移し、サンティ・デニア監督は準々決勝スイス戦とまったく同じスタメンを並べたため、先週、2-2で引き分けたグループリーグ最終節でも先発したのはサンセット(アスレティック)だけに。相手もナザレンコ(ドニプロ)とビブチャレンコ(ディナモ・キエフ)の2人だけがリピートしたんですが、一番の違いは前回はまだ、負傷が治っていなかったムドリク(チェルシー)が復活したことでしょうか。

それがまた、準々決勝フランス戦で波乱を起こす原動力となったウクライナの10番にスペインの選手たちも序盤にやられてしまったから、さあ大変!そう、13分にはビクトル・ゴメス(ブラガ)がムドリクを止められず、エリア内右奥から折り返したボールを1月にチェルシーに7000万ユーロ(約110億円)で移籍する前のチームメート、ボンダレンコ(シャフタール)が決めて、先制点を奪われたんですが、大丈夫。この日のスペインは立ち直るのも早くて、17分にはビクトル・ゴメスが守備のミスを攻撃で償おうと、センターラインからスルーパス。こちらもクラブの現同僚、アベル・ルイス(ブラガ)が反応し、何とエリア内でCBバタホフ(ゾリャ・ルハンスク)をかわし、GKトゥルビン(シャフタール)もかわして、同点ゴールを挙げてくれるとは有り難いじゃないですか。

おまけに24分にはミランダ(ベティス)からのクロスをTACONAZO(タコナソ/ヒールキック)でアベル・ルイスが繋ぎ、サンセットが撃ち込んで、あっという間に勝ち越しているとなれば、レギュラー対決ではスペインの方が実力が上?いえまあ、40分にはまたムドリクにクロスを上げられ、シカンにシャフタール勢の連携力を見せつけられるところだったんですけどね。この時はGKアルナウ・テナス(バルサ・アトレテイックと契約終了)のPARADON(パラドン/スーパーセーブ)で何とか凌ぎ、2-1のスコアでハーフタイムに入ることに。

そして後半はサンティ・デニア監督もムドリク対策を取って、ええ、「QUIZÁ TENÍA QUE HABERLO HECHO ANTES/キサ・テニア・ケ・アベールロ・エッチョー・アンテス(もっと前にやらないといけなかったんだろう)」と当人も反省していたんですけどね。セルヒオ・ゴメス(マンチェスター・シティ)とロドリ(ベティス)の位置を入れ替え、守備の心得がある前者をビクトル・ゴメスのヘルプとして、ムドリクとマッチアップさせたことが成功。実際、9分にはもう、ウクライナがエリア内からクリアしたボールをブランコ(昨季はRMカスティージャからアラベスにレンタル移籍)が決めて、早々と3点目も取ってしまいましたからね。

もう後は前掛かりになる相手のスペースを狙うカウンターだけで良かったんですが、この日はサンティ・デニア監督の交代策も冴えていて、23分には途中出場のアイマール・オロス(オサスナ)が4点目のゴールをゲット。33分にも今度はアベル・ルイスの横パスをセルヒオ・ゴメスが決めて、とうとう5-1のGOLEADA(ゴレアダ/ゴールラッシュ)勝利とは、ビックリさせてくれるじゃないですか。いえ、最後にピッチに入ったリケルメ(昨季はアトレティコからジローナにレンタル移籍)も2本程、シュートを撃ってみたんですけどね。残念ながら、追加点にはならず、この盆と正月が一緒に来たようなゴール祭りには加われませんでしたが、いえいえ。まだ土曜のイングランドとの決勝が残っていますって。

そんなスペインU21チームは翌日、大会開幕からずっと居座っていたブカレストを離れ、共催国ジョージアのバトゥミに移動。準決勝が終わった時間が遅かったのと、黒海を越えるのに3時間程、かかったため、木曜はグラウンドで練習せず、前日セッション1回きりで、イングランドと対戦することに。ちなみにスペインがずっとルーマニアにいたのと同様、イングランドもここまでジョージアで全試合を戦ってきたんですが、あちらは準決勝で、グループリーグでも2-0と勝っているイスラエルに0-3と更にパワーアップして、無失点5連勝を達成。ただ、スペインもU21ユーロでは直近7大会中、5回も決勝出場している常連ですからね。

優勝回数もイタリアと並ぶ5回と最多ですし、前回、2019年大会で優勝したチームにはダニ・オルモ(ライプツィヒ)、ファビアン・ルイス(PSG)、ミケル・メリーノ(レアル・ソシエダ)、セバージョス(レアル・マドリー)と、A代表にも呼ばれているメンバーが多いのは実際、当時、U21を率いていたデ・ラ・フエンテ監督も準決勝から現地入り。彼の下で6月にネーションズリーグ・ファイナルフォーに優勝した先輩たちのように、あと一歩でトロフィーを手土産にバケーションに入れる選手たちの励みにもなるのでは?準決勝進出で来年のパリ・オリンピックの切符も手に入れたスペインでは、この大会でU21卒業となるアベル・ルイス、セルヒオ・ゴメス、ミランダ、ブランコ、ビクトル・ゴメス、ギジャモン(バレンシア)ら、U17ユーロ、U19ユーロと戴冠してきた2000年生まれ組の間で壮絶なオーバーエージ枠争いも始まっているようですし、きっと皆、決勝でも頑張ってくれるんじゃないでしょうか。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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