経営変革の支援は「支援先の人や組織を動かすこと」が重要 ~ TRAIL 戸田隆行代表 単独インタビュー(前編) ~

「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」など私的整理の整備が進み、法的整理に頼らない事業再生に注目が集まっている。一方、事業再生が必要になる手前の段階での再建ニーズも少なくない。だが、現場目線で事業再構築や新分野展開、収益力改善を手掛けられる人材は少ない、との指摘もある。

東京商工リサーチ(TSR)は、企業の経営支援を専門とするTRAIL(株)(TSR企業コード:352918985、東京都中央区)の戸田隆行・代表取締役に、ビジネスモデルや企業の再建手法、経営人材の在り方について聞いた。


―経歴や創業に至った経緯について
大学時代にベンチャーキャピタル(VC)のインターンとして、投資先の事業計画策定や資金調達に関わらせてもらったことがキャリアの出発点だ。規模は変わるが、そこからずっと同じような経営企画の仕事をしている。大学卒業後はIBMビジネスコンサルティングサービス(株)(当時)を経て、直前は産業革新機構で投資先企業の支援を行っていた。育休を1年取得した後、TRAILを創業している。

―「オープンマネジメント」を提唱している
もともとは経営企画の業務を有期で、インハウスでやるのがコンセプト。今はそこから発展して、承継や再建、企業変革のための社長や執行責任者のチーム組成にも応じている。コンサルというよりは、当事者として経営業務そのものを一定期間請け負っている。

―引き受けるのは年商10億円程度の企業か
最頻値はその通りで、我々はスモールカンパニー特化。年商1、2億円規模の会社から、年商数百億円の会社まである。お金も人も時間も、すべてが足りない局面で、経営やビジネスのクリエイティビティを求められる。基本的にはファンドやVC、金融機関からのご相談に応じているケースが多い。

―ホームページ(Website)からも支援を受け付けている
Webはどちらかというと、我々のプロパー採用と支援先の社員の方に向けて作っている。我々のような会社が(経営に)入ると、支援先の従業員の方は「知らない人たちが来た」と不安に思い、最初に社名を検索する。そのため、我々がどのような存在で、どういう考え方で仕事をしているかを、Webを通じて知ってもらって、「顔」を見せることが大事との考えがある。

インタビューに答える戸田代表

―年商規模が小さい企業の支援はビジネスとして成り立たつのか
スモールカンパニーに特化して、当事者として経営(変革)業務を請負ったり、ワンストップで事業や組織・財務変革から経営者の派遣までやったりする会社はほぼ無い。これは事実、我々の競争優位になっていて、これまでにご評価を頂いてきている。
いわゆるコンサルティング会社による従来型の常駐は、経営変革において支援先の社員が主体性を欠きやすく、計画策定や支援終了後に実行段階でうまくいかなくなることも多い。TRAILのメンバーは、中小企業の経営企画やグループ会社の社長、管理部長・CFOを歴任してきた人物が主体で、支援先の組織や社員を動かして“一緒に働いてもらう”仕組みだ。まさに「人や組織を動かす」のが我々の暗黙知たるノウハウ。事業会社のマネジメントに精通した人間が直接に牽引しなければ、結局、組織は動かず、会社を変えられないとは思っている。
人材紹介と並行してご検討頂くこともある。ただ、そもそも我々のように、経営の変革局面に焦点を当てて、新規事業や事業承継から再建といった経営リスクの高い局面を専門に、かつ、自ら業務を請負うスタイルは、一部個人の方を除いてほぼ皆無の認識だ。

―これまでに手掛けてきた案件は
件数だと(創業から)8年間で150件以上。現在も数十社を超えて支援している。業種も金融・不動産を除いて多種多様。足元は5割が再建、4割が承継や成長、1割が(大学発)ベンチャーの比率。再建案件は「業績ジリ貧」や、私的整理を絡めた検討が必要になりそうな段階にある会社が多い。

―具体的な支援方法は
まずは、経営に参画するにあたってのミッションを明確にする。関係者によって期待値が異なるので、どのアジェンダをいつまでに、どこまで達成すればいいかを組み立ててプロジェクト化する。そして、その期間の経営変革の要件に必要なメンバーを、2名以上からなる経営チームとして組成する。プロパーの方にコーチングを行い、最終的には自立して頂いて経営業務をバトンタッチする。
ミッションは半年ごとに変更することが多い。最初は会社の事業面でのマーケットにおけるポジショニングやビジネス特性の再定義を行いつつ、経営管理や月次決算もできていないような場合はまずそこから手を付ける。ミッションごとに契約を区切り、必要がなくなったら即時に引き上げる。その代わり、我々もしがらみなくミッションに集中できる。

―チームのアサイン方法は
現在200名超のメンバーシップの中から、またはリファレンスを通じて、専門のサーチャーが複数の候補者を見つける。我々プロパーの経営企画のほかに、専属赴任候補のメンバーがいる。メンバーシップにも種類があり、一つは会計士や弁護士、特定のジャンルに特化した専門家など。また、経営経験豊富な独立した個人事業主の方も多い。紳士協定のような感じでNDAを結んでいる。現在も企業の社長や事業本部長として活躍している方も多く、人材マーケットには出ていないが、面白い案件があればTRAILのモデルなら……と、経営の価値観を共有してくれている。

―強みは、必要な人材をアサインできる力か
核となる強みが人材にあることは間違いない。普通なら来てくれないような経営チームを組成できることに結構よく驚かれる。
全く経験したことのない業種や地域でも、ご相談があれば極力断らずに、支援先の会社や社長との雰囲気が合うかなど言語化できないようなことも考えながら、チームアップしている。これが再現性をもって上手くいってきたことで、TRAILの今日がある。そのため、結果的には強みの一つだと思う。
(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年7月3日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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