【深掘り】玉城知事の訪中、際立つ厚遇 基地議論は慎重姿勢 真価問われる地域外交

 玉城デニー知事は3~7日にかけて中国を訪問し、李強首相や王文濤商務部長ら要人と相次いで面談した。日本国際貿易促進協会(国貿促)訪中団の一員とはいえ厚遇ぶりが際立った。訪中は玉城知事が今年から取り組む「地域外交」の一環。今回は経済や文化交流に重点を置いた。施策の展開で何を実現するのか。今後の県の具体的取り組みが問われることになる。
 玉城知事は5日、北京の人民大会堂で共産党序列2位の李首相と面会した。訪問団の総勢約80人の中で李首相と会話したのは国貿促の河野洋平会長と玉城知事の2人のみだった。
 
■異例の扱い
 座席位置も、李首相に最も近い河野会長の隣で、垂秀夫・駐中国大使よりも近い席だった。座席順は中国側が決めたという。2015年に翁長雄志前知事が訪中した際は河野会長と当時の日本大使の次の席だったことからも、今回の異例の扱いを印象付けた。
 中国と沖縄を結ぶ直行便の運航再開などを求めた玉城知事に、李首相は「課題解決に向けて関係部署に検討を指示する」と発言。知事発言の概要は事前に中国側へ伝えていたことから、李首相の回答は単なるリップサービスにとどまらず具体的な改善の動きにつながることが期待されている。
 防衛省関係者は交流推進には賛同した上で「尖閣諸島問題に触れて石垣市周辺の漁民らの不安などを伝えるべきだった」と話した。政府内には米中の競争関係が激しさを増す中、中国が日米関係にくさびを打とうとしているとの警戒感も漂う。
 訪中に先立って、中国共産党の機関紙「人民日報」で習近平国家主席が「琉球」について言及したと報じられ、中国側の思惑を見極める必要性を指摘する声も上がった。
 開会中の県議会でも、与党側が好意的に評価したのに対し、野党側は批判的な論陣を張った。
 
■交流拡大に重点
 県は地域外交で軍事や安全保障問題を正面から取り上げることには慎重な姿勢だ。
 玉城知事は5月26日の会見で「安保の面を強調するのではなく、普段から人流、物流、学術文化など、互いの意思疎通を図る中で互いの発展に向け協力関係をつくることが大事だ」と強調した。
 県関係者は、県内に配備されている防衛力に関する詳細な情報も提供されない中、海外で安保問題を持ち出しても「リアリティーのある議論はできない」と話す。大国を相手に自治体としてできることの限界を認識しつつ、人的交流の拡大に的を絞ることで緊張緩和や地域の安定への貢献を狙う。ひいては基地負担の軽減にもつなげたい考えだ。
 この姿勢は県が地域外交のキックオフと位置付け、照屋義実副知事が出席した6月の韓国・済州でのフォーラムでも表れた。
 照屋副知事は交易で栄えた琉球や沖縄戦などの歴史を紹介し「世界の恒久平和の実現」を求める県民の思いを紹介した。だが、過重な米軍基地負担といった沖縄の課題には言及しなかった。
 県関係者は「対話による平和」を進める重要性を指摘する。一方、その中で平和を実現するためにどのようなメッセージを発するかは「今後の課題だ」と述べた。
 玉城知事は今後、台湾などへの訪問も計画するほか、地域外交方針も策定予定だ。知事肝いりの地域外交の展開で、何を発信し、何を実現するのか。今後の方策が問われる。
(知念征尚、沖田有吾、明真南斗)
【識者談話】軍縮の利点強調を 小松寛氏(成蹊大アジア太平洋研究センター・主任研究員)
 沖縄はこれまで、基地問題の解決について、決定権のある日米両政府に「要請」する立場だった。しかし地域外交は、要請などをする場ではなく、互いにメリットがなければ成立しない。共通の利益を探し出すためには沖縄の「強み」は何か、沖縄はどのようにアジア地域に貢献できるかを考え直す必要がある。
 沖縄の基地問題は一義的には日本国内のどこに米軍基地を置くかという問題であり、日米間で協議すべき問題だ。他国に「沖縄の基地問題をなんとかしてほしい」と訴えても、相手側も戸惑うだけであろう。済州道でのフォーラムで沖縄県側が基地問題に触れなかったことは理解できる。
 しかし、冷戦期以降、韓国(および台湾)は安全保障上、米国に依拠してきたことは事実であり、米国の東アジアでの拠点が沖縄だ。沖縄の基地問題は東アジアの国際関係における問題であることを沖縄側から発信する必要はどこかで出てくる。
 他方で、今回の訪中で知事は李首相との会談や中国メディアのインタビューで「対話による平和が重要」であることを地方政府の長として強調した。沖縄から明確なメッセージを発信したことは意義深い。
 今後は軍縮が沖縄だけでなく東アジア全体にとってメリットがあるとの論理を構築・強化する必要がある。
 (国際関係論)(談)

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