口腔ケアで健康寿命延伸/「歯周病は全身に影響」青森県内歯科医師 重要性訴え

口腔ケアの必要性を強調する滝沢理事(右)。「歯周病は全身の状態にも影響する。早めの対応が必要」=6月、青森市の東ミナトヤ歯科医院

 糖尿病や肺炎などの死亡率が全国ワースト水準にある青森県で、口腔(こうくう)ケアの重要性が叫ばれている。口内環境の悪化によって発症する歯周病は、糖尿病や動脈硬化を進行させ、体全体に悪い影響を与えるとされている。県内の歯科医療関係者は「口の健康状態の悪さは全身のフレイル(虚弱)や病気の発症につながる。健康寿命を延ばすためには、口の中の健康を保つ施策に力を入れるべきだ」と語る。

 「歯周病を患っている人の中には、糖尿病が悪化しているケースが多くみられる」

 青森市歯科医師会の滝沢仙太郎理事(東ミナトヤ歯科医院理事長)は語る。歯周病を発症すると、歯周病菌や炎症性物質が血管を通して全身に回り、血糖値をコントロールするホルモン「インスリン」の働きを阻害する-とのメカニズムを説明し、「歯科治療によって糖尿病が改善された事例は多数ある」と話した。

 青森市の60代男性は、糖尿病の合併症である網膜症を発症するほど病状が進行。2020年、内科医の紹介で市医師会会員の医院で歯科治療を受けることになった。初診時、血糖値の指標「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」が7.9と、合併症予防の目標値(7.0未満)よりも高かった。しかし、歯石や歯垢(しこう)を取るなどの歯周病の治療を進め、基本的な治療が終了した21年6月には、正常値内の5.9に下がった。定期的な口腔管理によって、現在は安定した血糖値を維持している。

 滝沢理事は「治療によって歯周病による炎症が改善したとみられる。かみ合わせが良くなったことにより栄養摂取バランスも改善した」と語った。

 22年の青森県の糖尿病死亡率(厚生労働省人口動態統計)は全国ワースト。肺炎はワースト4位。脳血管疾患は同7位、心疾患が同8位と軒並み悪い。

 糖尿病は、腎症、網膜症、神経障害の三大合併症のほか、動脈硬化など血管障害も引き起こすとされる。歯周病と認知症の関連性を指摘する研究論文もある。

 滝沢理事は「本県の要介護の人を減らし、健康寿命を延ばすためには口の健康の維持が重要」と述べた。

 県は20年度から医科・歯科連携事業を実施。県内の医科・歯科医療機関で、糖尿病や歯周病の患者を確認した場合、相互に受診を勧める取り組みを行っている。

 21年度、患者に対して行った受診勧奨は、医科から歯科への勧奨は1433件、歯科から医科への勧奨が77件だった。

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歯周病 歯と歯茎の境目に細菌を含む歯垢(しこう、プラーク)が増えて歯茎が腫れ、歯周ポケットと呼ばれる溝ができる歯肉炎と、症状が進行して歯槽骨が溶ける歯周炎の総称。歯が抜け落ちることもある。治療では、こびりついた歯垢が固まってできる歯石などを器具を使い除去する。県歯科疾患実態調査によると2016年度、青森県の40代で進行した歯周炎があるのは66.7%だった。

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