<書評>『琉球列島のフクギ並木』 沖縄の宝の風景を見いだす

 著者のフクギに対する熱いまなざしはどこから湧き出てくるのだろうか。フクギに懸ける思いは並々ならぬものがある。フクギは、幹が真っすぐ垂直に伸び小判型の葉を密につける樹形の美しい木である。

 そんな美しい姿を持つ木であると同時に風にも強いという特性を併せ持っている。そのため、台風の多い沖縄では古くから防風林・防潮林として屋敷周りや村の周りに植えられ生命・財産を守る木として重要視されてきた。

 本書は、琉球列島に現存するフクギの木を3万本にわたり1本1本樹高や幹の太さなどを調査し、さらにフクギと暮らす人々の率直な声をインタビューから拾いあげた科学書であり、その結果、現時点におけるフクギの置かれた状況を浮かび上がらせている。

 本書の構成は、2部形式で全16章からなっており、そのほとんどが、調査目的、方法、結果、考察と書き進められ、克明に記録された内容から、まるで著者と共に調査へ参加しているような気持ちになる。ドキュメンタリーと言ってもよいかもしれない。このような調査からは、かつての琉球の原風景とも呼べる集落景観がなるほどとよみがえってくる。

 しかしながら、現在ではこのようなノスタルジックな話だけではないようだ。家・屋敷を守ってきたフクギも、今や、葉や果実を道路や周辺にまき散らし、住民に清掃を強いる厄介な木と見られたり、同じ位置に何百年も立つ故に近代的生活の邪魔になることもあるようだ。

 本書では、著者の根気強い調査に裏打ちされたデータを基に、フクギという植物に観光的魅力や文化的価値を見いだしている。フクギは今後どのようになっていくのか。著者はもの言わぬフクギの代弁者となって新たな提言を試みている。

 フクギ並木は沖縄固有の風景であることを忘れてはならない。著者は、沖縄に宝の風景を見いだしたのである。

(赤嶺光・琉球大教授)
 チェン・ビシャ 中国福建省生まれ、琉球大准教授。2018年度日本海岸林学会賞受賞。主な著書に「近世琉球の風水と集落景観」など。

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