【第2回WUBS】白鷗大の初戦の相手、ペルバナス・インスティテュートはインドネシアのトップリーグIBLの若手スターを擁する強豪チーム

本稿公開時から約1ヵ月先の8月10日(木)から始まるWUBS(Sun Chlorella presents World University Basketball Series=ワールド・ユニバーシティー・バスケットボール・シリーズ)。WUBS日本学生選抜チーム vs アテネオ・デ・マニラ大学のエキジビションゲームを行う初日(Day0)を経た後の8月11日(金=Day1)で、白鷗大が対戦するペルバナス・インスティテュートについて、情報をまとめてみたい。このチームは、日本と異なるシステムの中で活動している、我々にとっては非常に興味深いチームだ。

Sun Chlorella presents World University Basketball Series大会公式サイト

インドネシアのバスケットボール事情はこれまで日本でほとんど語られていない。ただ、FIBAバスケットボールワールドカップ2023の開催地として名乗りを上げた事実や、FIBAアジアカップ2022を首都ジャカルタで開催したこと、インドネシア代表のブランドン・ジャワトがBリーグで活躍したことなどから、バスケットボール熱が相当高まってきていることは日本でも感じられるようになってきた。国内にはインドネシアバスケットボール協会が運営するプロリーグ、IBL(Indonesian Basketball League)が存在し、16チームがしのぎを削っている。

この流れが加速してきたのは、2019年にミロス・ペジックというセルビア人コーチが、IBLのサトゥリアムダ・ペルタミナ・ジャカルタというクラブのヘッドコーチに就任したあたりからだ。ペジックはヨーロッパのクラブやいくつかの国のユースカテゴリーでコーチの腕を磨いた人物で、2007年にはFIBAヨーロッパU20選手権でセルビアを金メダルに導いている。

サトゥリアムダはペジックの指揮下で2021年にリーグ制覇に成功すると、コーチが交代した後の2022年にもIBLで連覇を達成した。ペジックの方は2021年にサトゥリアムダを離れたが、同年からインドネシア代表のヘッドコーチに就任。すると今度は、2022年5月にハノイ(ベトナム)で開催された東南アジア競技大会で、インドネシア代表を金メダル獲得に導く。

決勝戦の相手はサーディとキーファーのラベナ兄弟らを擁したフィリピンだったが、インドネシアはジャワトらの活躍で85-81というスリリングな接戦を制した。フィリピンのメディアはこの黒星を「キングサイズのアップセット」と報じ、「ホラー・オブ・ハノイ」と形容した。しかしペジックの方は「このチームはシステムの中で作られてきています。計画通りですよ」と胸を張っていた。

バスケットボールがこのような前向きな流れに乗っているインドネシアにおいて、ペルバナス・インスティテュートは2022年の大学王者としてWUBSへの出場権を獲得したチームだ。大学としては、ジャカルタにキャンパスを構えるインドネシアの銀行・金融関連産業の人材育成機関的な役割を担う、高等教育機関という特色を持つ。バスケットボール関連では、インドネシア代表として活躍したチームのOBであるクリスチャン・ロナウド・シテプの名が、インスティテュートの公式サイトで著名な卒業生として紹介されている。

インドネシアの「大学王者」とは、秋口に開催されるLIMA(LIGA MAHASISWA)のバスケットボールリーグを勝ち抜くことを意味している。LIMAはインドネシアの大学スポーツを統括する機構で、2022年の男子バスケットボールは21チームが参戦。まずは5つのグループに分かれてのグループラウンドを行い、上位8チームによる決勝トーナメントで王者を決めるフォーマットだった。

ペルバナス・インスティテュートは、まずグループラウンドの3試合を、平均得点94.0、平均失点41.0という圧倒的な強さで無傷で勝ち抜け、準決勝でもハラパン・バングサ工科大を71-41と寄せつけない戦いぶりだった。決勝では、前年の王者で昨年のWUBSに出場したペリタハラパン大を準決勝で64-58のスコアで下したセマラン大に終盤まで苦戦を強いられたものの、74-68でしのいで王座獲得となっている。

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©️Perbanas Institute

\--{IBL2023のMIPアーガス・サニュディーの存在感}--

IBLのMIPアーガス・サニュディーの存在感

中心的な戦力として挙げておきたいプレーヤーは、ペリメーターならば決勝で22得点、8リバウンド、6アシストを記録して勝利に貢献したポイントガードのグリーンズ・タングクルンがその一番手。オフェンスの起点となり、3Pショットも積極的に狙ってくる。素早いトランジションで相手をグングン引き離していくペルバナス・インスティテュートのプレースタイルの中で、運動能力が高くコートを走りまくるタングクルンの存在が相手の体力を削る。

タングクルンは、実はIBLのインドネシア・ペイトリオッツというチームでもプレーしている。LIMAとIBLのシーズンが重ならないために学業の傍らプロでプレーすることが可能になっているのだ。背景や運用されているシステムは日本のBリーグとは当然異なるが、特別指定選手枠で大学生がBリーグのコートに立つのと相通じる部分があるだろう。ペイトリオッツはペジックが現在指揮官を務めているクラブ。タングクルンはそこで、母国代表監督の指導を受けながら、トップリーグのハイレベルなプレーを体感しているというわけだ。

スピードのあるガード、グリーンズ・タングクルン(©️Perbanas Institute)

インサイドでは、センターを務めるアーガス・サニュディーの、大きな体格が攻守で重宝されている。サニュディーは高校卒業後の2020年にIBLのドラフト1巡目6位でアマルタ・ハングトゥアー・ジャカルタというチームから指名を受け、2023シーズンはビマ・ペルカサ・ジョグジャというチームでプレーしている。

サニュディーの身長は192cmだが、体重が115kgある。センターとして高さはないものの、体の幅と厚みからその存在感は相当なものだ。IBLは現在2023シーズンのプレーオフが進行中だが、サニュディーはレギュラーシーズンのMIP(Most Improved Player=最も向上したプレーヤーを称える表彰)に輝いている。

身長的には小柄でも横幅は超大柄なアーガス・サニュディーは、白鷗大のフロントラインも要注意のビッグマンだ(©️Perbanas Institute)

ペルバナス・インスティテュートの試合では、ローポストでポジションをとったところにタングクルンらペリメーターのプレーヤーがオフスクリーンからのオフェンスを狙ってくる。もちろんプレーの流れに沿って、チャンスと見ればサニュディー自身がボールを受けて、ペイントに攻め込んでいく。チームメイトもサニュディーをパスターゲットとして常に視野に捉えており、ドライブをしかけてサニュディーのマッチアップを引き寄せ、アウトナンバーの状況からサニュディーの得点機を作り出すシーンも多い。

ディフェンスで彼のリバウンドから速攻に転じるのも、ペルバナス・インスティテュートの一つの得点パターンだ。チームにはリノズ(Rhinos=サイ)というニックネームがあるのだが、サニュディーが速攻のトレーラーとなってコートを駆け上がってくる様子は、このニックネームがぴったりくる(誤解を避けるために記せば、サイは決して動きの遅い動物ではなく、時速50㎞以上で走ることができると言われている)。彼が勢いよくゴール下に駆け込んでくると、止めるのは難しい。そんな状況からオフェンスリバウンド、そしてプットバックという流れが続けば、自然と大量得点になっていくのだ。

スイングマンタイプのプレーヤーでは、長髪と逆三角形の鍛えられた体格を持つ身長185cmのスモールフォワード、イーシャ・ラピアンも力強いプレーを見せていた。彼もIBLでプレーしている。身体的な強さが大きな強みだが、ロングレンジからの得点や、ブレイクでの状況判断の良さなど、目を引くプレーが多々あった。

強さと器用さを兼ね備えたスイングマン、イーシャ・ラピアン(©️Perbanas Institute)

チームとしては全体的に小柄であり、ヒデヤット・ラクマッドHCにとっては、この点での対策がWUBSで成功を収める一つのカギになりそうだ。昨年のWUBSでは、ペリタハラパン大は白星を手にすることができなかっただけに、リノズの面々はWUBSにおけるインドネシア勢初の勝利を目指して、意欲満々で来日するに違いない。国外のサイズもある相手との対戦は大きなチャレンジだろうが、どんなバスケットボールを展開するか、まずは白鷗大との一戦に注目してみたい。

WUBS初出場のペルバナス・インスティテュートは、今回の来日を非常に楽しみにしている様子で、チーム公式インスタグラムなどから積極的にチームの素顔を発信している。すでにタングクルンやサニュディーらを含む12人のロスターを公表していた。LIMA公式サイトには、ラクマッドHCが語ったWUBS参加に向けた抱負も以下のように記載されている。

「WUBS2023に出場できて大変うれしく思います。我々にとっては世界レベルで自分たちがどんな位置にいるかを見る初めての機会になりますからね。経験を積んで、友だちの輪を広げて成長できることを望んでいます」

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彼らの背景を知ると、インドネシアというこれまで日本のバスケットボール界とはあまり深い交流がなかった国の若者が、日本の若者と同じようにバスケットボールで高みを目指す姿に出会う。サニュディーは2020年にドラフト指名を受けた際、「自分の活躍が同窓の後輩たちにもよい刺激になったらうれしいです」とコメントしていた。WUBSで、バスケットボールを通じて来日する経験も、後輩たちに伝える貴重な経験になるだろう。これも今大会の大きな意義に違いない。

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