PERSONZの2023年BESTであり、40周年への期待感が膨らむような手応えのあるライブ

今年結成39年。現在全国ツアー真っ最中のPERSONZが7月2日に東京・有楽町ヒューリックホールでライブを行なった。 今回の<PERSONZ I AM THE BEST TOUR 2023>は、当初2020年のミニアルバム『I AM THE BEST』に伴って企画されていたものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響により無念の中止となったツアーのリベンジ。最新作のタイトルにも掛けて、PERSONZのBESTな曲をリストアップして全国を回るという、長年のファンにとっても嬉しい内容であり、PERSONZ入門編としてもオススメのツアー。5月6・7日に行われた横浜2daysの初日は、5月8日からの感染対策緩和を目前にマスク越しなら声出しOKという状況だったが、そこから2カ月を経て世の中の空気もさらに少しずつ緩和されてきた。全12本中5本目となるこの日のライブは、メンバーや仲間に会える喜びだけではなく、ライブ本来の多幸感や演奏に夢中になれる感覚をより実感するライブとなった。

『DREAMERS ONLY』(1989年)収録の「Singin' In The Rain」をインストゥルメンタルにアレンジしたSEが流れる中、メンバーが登場。大きな拍手で迎える観客。そんな温かい雰囲気のまま、『DREAMERS〜』の1曲目でもある「FALLIN' ANGEL」でライブはスタートした。軽快なリズムといい優しくキャッチーなメロディといい、PERSONZらしさにあふれたミディアムチューンに観客は大きく手を振って応える。JILL(vo)は小ぶりのハットに黒のガーター、濃いピンクのチュールをフワフワと揺らしながら歌う姿が愛らしい。本田毅(G)と藤田勉(D)はスワロフスキーがキラキラ光る黒いシャツ、渡邊貢(B)は同じくキラキラの付いたライダーズという出で立ちだ。続く「7COLORS」(1989年『NO MORE TEARS』収録)は虹をモチーフにしたポップ・チューン。歌詞のイメージを視覚化するようにステージは七色の照明に彩られ、ハッピーな空間が出現。JILLも観客もカラフルなサイリウムを振りながらリズムを取り、2曲目にして会場は早くも一体感に包まれる。

MCではメンバー全員、このツアーがいかに待ち遠しかったかを述べた。 「全国ツアー再開を心待ちにしておりました!」(藤田) 「俺も待ちに待った(笑)、このツアーをできる事をとても嬉しく思ってます」(本田) 「5月の横浜はタイミング的に離れていたので、メニューが全然違っていて。実質(6月18日の)高知からスタートした流れですが、どこも“待ってた感”を感じられるライブでした。みんなも負けないように!」(渡邊) そしてJILLは「この4年を振り返ると、人に会えないのが一番つらかった。でも、乗り越えればこうしてみんなに会えると信じてました。Never Say Goodbye!」と、ライブが待ち遠しかった気持ちを次の曲「SAYONARAは言わない」(アルバム『砂の薔薇』収録)へと繋げる。1994年に発表された曲だが“もう二度と会えないなんて 思いたくない 決して思わないから…いつかまた笑顔で 会えるから”というサビの歌詞が、まるでこの日のために書かれたかのように染みる。最後のリフレインでJILLが“会えたでしょ?”と歌詞を変えて呼びかけた場面では、こうして再びライブに集える幸せを噛みしめた人も多かったことだろう。

「PERSONZは39歳になりました。サンキューの年です。39年いろんな事がありました。2017年には中野サンプラザでアルバム『NO MORE TEARS』のリロード(最新のスタイルで再現する)ライブをやりました。同じ場所に立った時、自分は何が見えるのか、何かを失ってしまうのか。次の曲は、そんな気持ちで作った曲です」とJILLが語り、演奏されたのは「NO MORE TEARS -SPIN A STORY-」。これは『I AM THE BEST』に収録されている楽曲であり、1994年のアルバム『砂の薔薇』収録曲「NO MORE TEARS」のスピンオフ的なナンバー。1989年発表のアルバム『NO MORE TEARS』も同じタイトルなので少しややこしいのだが、それくらいPERSONZにとって“NO MORE TEARS”というのは重要なワード。94年の「NO MORE TEARS」は、素直に涙も流すこともできない虚無感や喪失感を歌った楽曲だったが、「〜 -SPIN A STORY-」のほうでは、そんな哀しさがあったとしても“涙を拭いて旅を続けよう”というパラダイムシフトが歌われている。ここ30年の出来事や時代の移り変わりを実際に見てきた世代には、よりリアルにこの曲のメッセージが感じられたのではないだろうか。 この日は“新しい試み”としてライブ中盤に15分の休憩タイムを設けたが、前半戦ラストはツアータイトルでもある「I AM THE BEST」。チアリーディングを彷彿させるイントロやサビのリズムが強力なフックとなっているこの曲。観客とともにしばし手拍子のレクチャーをして、いよいよ演奏スタート。メンバーもオーディエンスも思わず笑顔になってしまうハッピーなビートといい、シンプルにしてキャッチーなメロといい、メリハリとアッパー感に満ちた隙のない構成といい、まさにライブで真価を発揮するキラーチューンである。音源で聴くのももちろん楽しいが、この曲の持つポテンシャルはぜひライブに参加して味わって欲しいと思う。

後半は、バスドラと手拍子をバックに、JILLと観客のコール&レスポンスでスタート。映画『天使にラブソングを』でも有名なゴスペル曲「oh happy day」のフレーズをフィーチャーしつつ、これまた映画『ボヘミアン・ラプソディー』でのフレディ・マーキュリーばりの掛け合いを観客と応酬。声出しOKの楽しさってこうだった! と思い出しながら、そのままのテンションで演奏は「BE HAPPY」(1988年『MODERN BOOGIE』収録)に突入。休憩などなかったかのように、あっという間に温度感を急上昇させる術はさすがベテランならではのライブ・マジックだ。メンバーはやや軽装に着替え、後半はよりアクティブな選曲かな?と期待感も上がる。JILLはピンクのチュールを外して、背中側半分だけのティアードスカートというかトレーンを着用。フラメンコふうにトレーンの裾をヒラヒラとひるがえす動きも絵になる。 続くMCではJILLが結成30周年の頃の思い出を振り返った。「目の前の痛みや不安ばかり見てると先に進めなくなります。2011年の私がそうでした。どんどん時間だけ過ぎていって…。こんなのもったいない、何かできるはずと思って、2011年の新潟公演で“3年後の結成30周年には武道館!”と宣言して。みんなも応援してくれました。曲にはその時のイメージが残っているものです」とファンへの感謝を伝え、「DREAMERS ONLY」(2015年『夢の凱旋』収録)を演奏。震災に心を痛めていたJILLが、その痛みを未来への夢やパワーへ変えていこうと歌えるようになるまでを誠実に綴ったポジティブな楽曲であり、“DREAMERS”というPERSONZ作品の根底に立ち返る楽曲でもある。明るくポップなメロディでさらりと聴かせる軽快なナンバーだが、PERSONZの歩んできた歴史と基本姿勢を改めて再認識した気がした。 楽曲「DREAMERS ONLY」から今度はアルバム『DREAMERS ONLY』の世界へ。同アルバムのラストを飾る「Singin' In The Rain」は、じっくり聴かせるドラマティックなミディアムバラード。普段は正確無比なピッキングでビートを刻む渡邊も、この曲では指弾きの広がり豊かなサウンドで緩やかに全体を包み込む。フェイクを織り交ぜて語りかけるようなボーカルと、エモーショナルなギターが絡む様は、まるでミュージカルの一場面を観ているようで本当に素晴らしかった。

本編ラスト3曲はPERSONZライブのど真ん中とも言えるロックチューンを連続投下。タムを多用する重めのビートが印象的な「MAYBEE CRAZEE」では、彼らのグラムロック愛が炸裂。ブライアン・メイを思わせるギターの重奏フレーズも冴えている。そして「MAYBEE CRAZEE」の最後の音が消えないうちにすかさずギターのコードを一発、JILLが“ト、ト、ト、ト…、トキオズ グローリアス!”と叫ぶ。ライブの人気曲「TOKIO'S GLORIOUS」(『NO MORE TEARS』収録)の始まりだ。タイトなビートと弾けるようなパッションあふれるサウンドに煽られ、会場にはジャンプの波が広がる。メンバーもそれに応え、渡邊はベースのヘッドを観客に向けて構えたり、本田は腰を落としてロックギタリストらしいキメポーズを見せる。JILLも前列の客にハイタッチして回るなど、ライブならではの景色が楽しい。本編ラストは『DREAMERS ONLY』のタイトル曲的なナンバー「DREAMERS」。JILLの「みんな夢見るドリーマーズ。一緒に歌おう!」という言葉に導かれて始まったこの曲では、JILLの呼びかけ通り大合唱となった。“We are all dreamers. We can be heroes”というサビを声に出して歌っていると、本当にヒーローになれるような力が湧いてくるから不思議だ。言葉、声、歌の持つ力が心に及ぼす作用を改めて実感した。

アンコールは、JILLの人生観が伝わってくるような2曲が披露された。「人生何が起こるかわからない、道に迷う人もいるかもしれない。でももしこの歌や演奏がそういう人に届いたら、帰り道にはちょっと明るい気持ちになれるかもしれない。音楽で世界は変えられないけど、人の気持ちは変えられる。そんな気持ちで歌います」と、「SINGIN'」(2002年『HOME COMING』収録)を。R&B的なアプローチのロック・アンセム。一般的なPERSONZ曲のイメージではないかもしれないが、こういう切なく温かいスロー・ナンバーも彼らの魅力のひとつである。音楽に真摯な希望を託した歌詞と、胸に突き刺さるような泣きのギターに、心が揺さぶられる。 そしてオーラスは「DEAR FRIENDS」。何年経っても決して色あせない、J-ROCK史に燦然と輝く名曲中の名曲だ。それだけに、PERSONZの熱心なファンでなくともこの曲を歌える人は多く、当然ライブでは会場中が大合唱となる。声出しNGだったここ3年間はバンドの演奏だけで聴かせてきたが、この日はやっと本来のアレンジというか、会場のシンガロングもこの曲を構成する一部というスタイルが復活。言わば、観客もコーラスパートを担当するゲストボーカルのような存在。JILLは観客ひとりひとりの目を見て顔を確かめながら歌い、楽器隊の3人も無意識かもしれないが真っ直ぐ前を見て観客に向けて気持ちを送ろうと演奏しているように見えた。 すべての演奏が終わると、メンバーは客席をバックに観客と記念撮影。この日はJILLが応援メッセージ入りの手作りうちわを持った男の子(年齢を訊かれて6歳と答えてました)を見つけ、その子をステージに上げてもう一度記念撮影。PERSONZのライブチケットは高校生以下1,000円という設定が多いせいか、親子連れで来ている人も目立つ。奇抜なことや反体制なことがロックだという偏った認識も世間にはまだあるが、PERSONZはロックのポジティブな面…周りに振り回されないカッコ良さや自立心、仲間への愛などを研ぎ澄ませて、その本質をピュアに体現しているからこそ、次世代へと継承されていくのだと思う。

MCでJILLは「当時はわからずに夢中でやってきた曲も、積み重なった曲たちがその時々で生きて聞こえてくることがある。PERSONZの楽曲は300曲あって、来年の40周年には何をやろうかと考えてます」と抱負を語っていたが、確かにこれだけレパートリーがあればセットリストも無限に組めるだろう。今回の選曲もベストに違いないが、それもベストの一角というか、まだまだ別のパラレルワールド的な選択肢がありそうでワクワクする。2023年PERSONZのBESTでもあり、40周年への期待感がふくらむような手応えのあるライブだった。(Text:舟見佳子 / Photo:アンザイミキ)

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