【徹底分析】世界選手権女王・孫頴莎に4年ぶり土つけた 強化された“新生”平野美宇の技術とは

<卓球・WTTコンテンダーザグレブ2023 日程:6月26日~7月2日 場所:ザグレブ(クロアチア)>

6月26日〜7月2日にかけて開催されたWTTコンテンダーザグレブにてパリ五輪国内選考会2位の平野美宇(木下グループ)が、決勝で世界選手権金メダリストの孫穎莎(スンインシャ・中国)にゲームカウント4−3のフルゲームの末勝利して、センセーショナルな優勝を飾った。

決勝は中国選手連破の平野美宇 vs 4年以上対外無敗の孫頴莎

写真:平野美宇(木下グループ)/提供:WTT

日本でも“ハリケーン平野“と称されるように、両ハンドでの高速卓球で世界から一躍注目された平野であったが、特に中国選手相手には、深くコントロールされたボールで台から距離を取らされ、持ち前の武器を活かせないことが多かった。

近年の強化の甲斐もあってか、これまでとは違った武器で、今大会も劉瑋珊、蒯曼と中国選手2名に打ち勝っている。

写真:平野美宇(木下グループ)/提供:WTT

一方の孫は、言わずと知れた世界女王であり、小さな体からは想像もできないフォアハンドの強打が持ち味だが、バックハンドの安定したラリー戦も世界屈指のレベルで穴がない選手である。

その持ち前の武器を生かし、シングルスでは海外選手相手に伊藤美誠(スターツ)以来、4年以上も無敗という脅威の実績を誇っていた。世界からもパリ五輪優勝候補と目されている。

写真:孫穎莎(中国)/提供:WTT

今回は、世界最強の孫相手に平野が勝利を手繰り寄せた3つの秘訣に迫る。

①順横回転サービス&フォアの多彩なレシーブ

中国選手相手に最も重要となるポイントに挙げられるのが「サービス・レシーブ」である。今回の対戦では、平野のサービス、レシーブが非常にハイレベルであったと言える。

平野は、代名詞の巻き込みサービスを中心に、近頃の試合で使用頻度が増えてきた順横回転のサービスを織り交ぜる組み立てを見せた。

写真:平野美宇(木下グループ)/提供:WTT

これにより、孫に回転に慣れさせることなく、チキータの質を落とし、平野の得意なバック対バックに結びつける展開で先手を取らせなかったことが功を奏したと言えよう。

また、特筆すべきはフォア前」のサービスに対する多彩なレシーブである。

図:平野のレシーブ例/作成:ラリーズ編集部

ゲームの序盤から孫のサービスに対し、ストップを多用した平野。孫がストップに対して反応が遅れたのを見逃さなかった平野は、ストップと同じタイミングからツッツキを織り交ぜることで、孫を揺さぶる。

加えて要所ではクロスへのフォアフリックを見せることで、孫に3球目攻撃の的を絞らせなかった点は素晴らしかった。

極め付けは、ゲームカウント3−3の7−5で見せたハーフロングサービスへのフォアドライブでの得点。終始先手を取り、孫に万全な体勢で攻撃をさせなかったことで、その後のラリー戦の主導権を握ることにもつながり、最も大きな勝因となった。

②強化された対下回転ドライブ

2つ目の秘訣は、ツッツキに対する両ハンドドライブである。鋭いツッツキを持ち上げさせてからのカウンターのような展開は、中国選手が多用する「対平野のスタンダード戦術」であった。

写真:平野美宇(木下グループ)/提供:WTT

今大会では、平野のツッツキに対する両ハンドドライブは非常に質が高く、スタンダード戦術を攻略したように見えた。バック側へのツッツキに対しては回転量が多く、かつコート深くに入るループドライブで孫のカウンターを防ぎ、甘い返球をさせる場面が多かった。

写真:平野美宇(木下グループ)/提供:WTT

また、フォア側へのツッツキに対しては、孫のフォアサイドを抜き去るスピードドライブで得点する展開も多かった点は、これまでの中国選手との対戦と比較しても明確な進化だと言える。

ともすれば、強打一辺倒になり、ミスが増えることも多かった平野であったが、難しいボールに対してはしっかりと回転をかけて相手のカウンターを防ぎつつ、ミスも減らす「攻めのループドライブ」も印象的であった。

③フォアハンドでのミドル処理

最後のポイントは、フォアハンドでのミドル処理である。

世界トップレベルの選手でも、バック対バックの高速ラリーではミドルを攻められると、返球が甘くなったりミスが出るものだ。平野も孫も試合の序盤から、バック対バック中に巧みにミドルを攻め、ラリーの主導権を奪い合う展開となった。

明暗を分けたのは平野の方がミドル攻めに対してフォアドライブの準備ができており、バックドライブよりも威力のあるフォアドライブで返球できた点であると言える。

写真:孫穎莎(中国)/提供:WTT

ミドル処理を含め、バック対バックの展開で平野は執拗なまでに孫のバック側へ返球することで、孫にフォアハンドでの反撃を許さず、ラリー戦でも互角以上に勝負ができていた。また、孫をバック側に釘付けにできた結果、フォア側へドライブした際に優位に得点できたことも、この快挙を支えていると言える。

図:平野のラリー中のコース取り/作成:ラリーズ編集部

まとめ

これまで0勝4敗と一度も孫に勝利していない平野。パリ五輪を1年後に控えたこのタイミングで臨んだ孫への挑戦では、確実に強化された新たなプレースタイルで、一時マッチポイントを握られる逆境をはねのけ、孫から初めての金星を勝ち取った。

パリ五輪を1年後に控えたこのタイミングで、現世界女王に勝利した経験は値千金であろう。それと同時に中国が平野に対して講じる新たな戦術を、平野がどのように攻略して見せるのか。今後の平野の成長からも目が離せない。

写真:平野美宇(木下グループ)/提供:WTT

文:てふてふ

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