【今週のサンモニ】処理水放出をめぐり風評被害をまき散らす|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

陰謀論を基に不安を与える風評を発信

2023年7月9日の『サンデーモーニング』は、トップニュースと「風をよむ」のセグメントで「安倍総理の銃撃による死去から1年」をテーマにしてスタジオ・トークを展開しましたが、その内容は、統一教会との関係を根拠に、テロ被害者である安倍総理と自民党を終始一貫非難するものでした。

まさに、『サンデーモーニング』は、実質的にテロリストに代わってそのテロの目的を実現すると同時に、結果的にテロを政治的に悪用して政府と自民党を非難したのです。

このような報道スタンスは極めて深刻であり、あえて当該記事の対象とはせずに、誌面において改めて論評したいと考えます。

さて、この日の放送では、もう一つ深刻なまでに有害な大衆操作を行いました。

『サンデーモーニング』は、福島第一原発処理水のIAEA(国際原子力機関)による科学的評価に対して、反証不可能な根拠や陰謀論を基に社会に不安を与える完全なる風評を発信することで、科学的に安全な処理水の海洋放出に反対したのです。以下、彼らのデタラメな主張をしっかりと紹介したいと思います。

サンモニ・アナウンサー:2011年3月、3つの原子炉で冷却機能が失われた福島第一原発、核燃料が熔けるなどして大量の放射性物質が排出されました。熔け落ちた核燃料は水を循環させ冷却していますが、1日あたり90トン余りの地下水や雨水が新たに原子力建屋に流れ込み汚染水が出続けています。

この汚染水から浄化設備ALPSによってトリチウム以外のほとんどの放射性物質を除去したのが、今海洋放出の準備が進む処理水です。処理水の入ったタンクはその数1070基、タンクの容量は97%に達していて、これ以上貯めておけないのです。

福島第一原子力発電所を視察するIAEAのグロッシ事務局長

発電所敷地内の空きスペースに最大限設置している処理水用タンクの容量が限界寸前に達しているにもかかわらず、先週の『サンデーモーニング』の放送でピースボートの畠山澄子氏は「足りなくなると言っている土地が本当に足りなくなるのかもわからないような状態だ」という事実と反する無責任な発言を行い、これを根拠に処理水の海洋放出に反対しました。

この発言に対して、さすがにまずいと思ったのか、今週の放送で番組は、畠山氏の発言などまるでなかったかのように「これ以上貯めておけない」と、しれっと真逆の主張を展開したのです。矛盾を臆することなく、けっして訂正することもなく、平然と前言を翻してごまかすのが、この番組の定番スタンスと言えます。

BPOは何をしているのか……

関口宏氏:グロッシ氏が「処理水の最後の一滴が安全に放出し終わるまで福島に留まる」と。それいつのこと言っているんですかと私なんかよくそんなこと言うなとドキッとした。

核の安全性を監視するための組織であるIAEAが処理水の最後の一滴まで監視するのは当然のことです。こんなことにドキッとすることの方がドキッとします。

目加田説子氏:安全対策の責任は基本的に国にある。福島の汚染水の件も、日本政府が地域社会に説明責任を尽くして地元の理解を得られるということがまず大事だ。

その第一義的な責任がないIAEAの事務局長が来て、あたかもお墨付きを与えるというようなことをするべきではない。このままでは日本政府に頼まれてIAEAが手助けに来ているというふうに見えますし、何よりも客観的な機関として政治的な中立性が脅かされるような事態になりかねない。

それから、汚染水の放出というのも、最低でも30年くらいはこれから続く。でもデブリの抽出が予定通りに進まなければ更に延期される。科学的な安全性の議論と心理的に不安を抱くとか納得ができるというのは別の次元の問題だ。

とてもじゃないが、地元の理解が得られている状況ではないので、この夏に海洋放出を開始するのはやめるべきだ。

相変わらず「汚染水の放出」という完全なるデマをテレビで流布している目加田氏です。この番組のデタラメを監視できないアリバイ用の業界団体であるBPOに存在意義はありません。

目加田氏は「安心でない」という個人の主観的認識を根拠に「安全である」という客観的事実を否定しているのであり、これこそが福島県民を苦しめている卑劣な風評に他なりません。

さらに目加田氏はこの風評を根拠に海洋放出を否定しています。ちなみに、処理水を海洋放出しない場合には、タンクは近い将来に満杯になるので、処理水を敷地内にバラまいて捨てるしかなくなります。その場合に、べき論で考えれば、「海洋放出をやめるべき」と主張した目加田氏が全責任をとるべきと言えます。

科学的根拠の主張を、科学的根拠なく悪魔化

松原耕二氏:最後の一滴までという言葉は軽く感じる。IAEAのトップがわざわざ来てお墨付きを与えて、翌日には米国政府が歓迎すると言わせてみたり、日本政府がかなり根回しをして段取りを組んだ感がものすごくあって、本当に中立なのかという声が確かに出ている。(中略)

福島の漁師の人たちから見ると、反対を封じるための段取りに見えるだろうし、科学的なことではない!

松原氏の発言は典型的な陰謀論です。

松原氏は、科学的根拠に基づく日本政府・IAEA・米国政府の主張を、具体的な科学的根拠なく悪魔化し、その中立性を問題視しています。このような主張は、ジャーナリズムではなく、単なる中傷であり、言葉の暴力に他なりません。

同時に松原氏は科学的根拠をも否定して風評を肯定しています。このようなテレビによる風評の肯定が福島の漁業関係者に風評被害を与えているのです。

寺島実郎氏:「海洋放出は仕方がないじゃないか」「国際基準に照らしてもOKじゃないか」という雰囲気が出きあがっているが、日本人の本当に知恵と覚悟が問われている。

問題はトリチウムだけだ。「トリチウムをどの国も出しているじゃないか」「今までの原発でも出していたじゃないか」というニュアンスで言っているが、よく考えなければいけないのは、トリチウムは取り除ける。世界にはその技術はある。だけど兆円単位のコストがかかる。だけど日本人としてこれだけ世界中に心配させている。逆に世界の度肝を抜くようにトリチウムを取り除いて海洋放出をすると。

科学的に問題がないことを認識していながら、国民に莫大なムダ金を使わせてトリチウムを除去するよう誘導するのは、完全に常軌を逸しています。このような突拍子もないコメンテーターを起用し続ける『サンデーモーニング』は日本社会を没落させかねない超有害番組です。

いずれにしても、IAEAは処理水の海洋放出が人及び環境に与える放射線の影響は無視できるものと結論付けました。処理水の海洋放出には何の問題もないのです。

その風評を不必要に創造し、無責任に拡散し、理不尽に風評被害を与える元凶となっているのがTBS『サンデーモーニング』なのです。いい加減、国民は怒りましょう。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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