「女性トイレ」めぐる最高裁判決に不安の声も…「偽トランスジェンダーが入ってくる」の“勘違い”

判決後、記者会見に臨む原告と弁護団(7月11日 霞が関/弁護士JP編集部)

女性として暮らす50代の経産省職員が、職場の女性トイレ使用の制限をめぐって起こした裁判で、最高裁は7月11日、裁判官5人全員一致の結論として「国の対応は違法」とする判決を言い渡した。

判決後に都内で行われた記者会見には多くの報道陣が詰めかけ、注目度の高さを物語っていた。

原告の「逆転勝訴」

判決によると、原告は男性として入省後、1999年頃には医師より性同一性障害である旨の診断を受けた。健康上の理由から性別適合手術は受けておらず、戸籍は男性のままだが、血液中の男性ホルモン量が同年代男性の基準値の下限から大きく下回っており、性衝動による性暴力の可能性が低いとの診断も受けているという。

2009年に性同一性障害について上司に伝え、女性として勤務したいことを要望し、翌年には同部署の職員への説明会を経て女性らしい服装や髪型、化粧、更衣室の利用が認められた。しかし女性トイレについては、執務室から2階以上離れたフロアを利用するよう制限されたという。なお更衣室や女性トイレの使用を始めて以来、他の職員との間でトラブルが生じたことはないそうだ。

原告は女性トイレの自由な使用を含めて、原則的に女性職員と同等の処遇を行うよう人事院に行政措置を求めたが、2015年に要求を認められないとの判定を受けたことから、国を相手に訴訟を起こすに至った。

国の対応について、2019年の1審判決では「違法」、2021年の2審判決では「適法」とされており、最高裁判決は原告の「逆転勝訴」となった。

「他の職員に対する配慮を過度に重視」

最高裁は人事院の判定について「具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、上告人(編注:原告)の不利益を不当に軽視するものであって(中略)著しく妥当性を欠いたものといわざるを得ない」と評価。

原告の不利益については、

  • 性同一性障害である旨の医師の診断を受けているところ、本件処遇の下において、自認する性別と異なる男性用のトイレを使用するか、本件執務階から離れた階の女性トイレ等を使用せざるを得ないのであり、日常的に相応の不利益を受けていることができる

と判断。一方で人事院の判定が「妥当性を欠いた」根拠としては、以下の事情を挙げた。

  • 健康上の理由から性別適合手術を受けていないものの、女性ホルモンの投与や女性化形成手術を受けるなどしている
  • 性衝動に基づく性暴力の可能性は低い旨の医師の診断も受けている
  • 説明会の後、女性の服装等で勤務し、執務階から2階以上離れた階の女性トイレを使用するようになったことでトラブルが生じたことはない
  • 説明会においては、原告が執務階の女性トイレを使用することについて、担当職員から数名の女性職員が違和感を抱いているように見えたにとどまり、明確に異を唱える職員がいたことはうかがわれない
  • 説明会から人事院判定に至るまでの約4年10か月の間に、原告による庁舎内の女性トイレの使用につき、特段の配慮をするべき他の職員が存在するか否かについての調査が改めて行われ、処遇の見直しが検討されたこともうかがわれない

「無条件に許容する」という判決ではない

なお、最高裁判決を受け、SNSやネットニュースのコメント欄では「偽トランスジェンダーが女子トイレに侵入しても止める根拠が無くなる」「これで今度は女性がトイレに行けなくなるという矛盾」といった“反対派”の声が目立っているが、今崎幸彦裁判長は補足意見として以下のように述べている。

「本件のような事例で、同じトイレを使用する他の職員への説明(情報提供)やその理解(納得)のないまま自由にトイレの使用を許容すべきかというと、現状でそれを無条件に受け入れるというコンセンサスが社会にあるとはいえないであろう」

「本判決は、トイレを含め、不特定又は多数の人々の使用が想定されている公共施設の使用の在り方について触れるものではない。この問題は、機会を改めて議論されるべきである」

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