三浦涼介「恩師・蜷川幸雄、そして母との死別を乗り越えて」突き進む俳優人生

(撮影:夛留見彩)

「いろいろな作品のお話をいただくたびに、『僕でいいのだろうか?』と思い悩むのですが、今回は演出家の石丸さち子さんとまたお仕事ができることが自分のなかではとても大きなことでした。『この人を信じてついていけば大丈夫だ!』と思っているので、精一杯、頑張ります!」

7月8日に幕を開た舞台『オイディプス王』で主人公のオイディプスを演じる三浦涼介(36)。近年、彼が出演した舞台『マタ・ハリ』『フィスト・オブ・ノーススター』で演出を担当した石丸との再タッグに強い意欲を見せた。

というのも石丸は、三浦が「お芝居のお仕事で初めて楽しいと思えた」という蜷川幸雄のもとで演出助手を務めた経験を持ち、蜷川さんの稽古で味わった感覚と同じものを感じた人。

「蜷川さんの作品に出させていただいたとき、お稽古中、僕の芝居を見て、『お前は一人で寂しく生きていたんだな』と仰ったことがあったんです。そのときにこの人に何か伝わっているんだという確かなものを感じたんです。そして、その後に石丸さんとご一緒したとき、同じように僕の芝居に涙を流してくれて、蜷川さんへと同じような感情を抱きました。」

近年は、『ロミオ&ジュリエット』『エリザベート』『メアリ・スチュアート』なども含む舞台を中心に活動している三浦だが、ギリシャ悲劇に挑戦するのは本作が初。しかも、『オイディプス王』といえば、紀元前より約2500年にわたって世界の観客を魅了し、日本でも幾度となく上演されてきたギリシャ悲劇の最高傑作だ。

「僕自身、ギリシャ悲劇はとても遠い存在で、役者としての技量も、僕の力ではとても及ばないと思っていました。でも、今回は石丸さんから『あなたに近い王を演じなさい。あなたらしさを出せばいい』と言われてお稽古をスタートさせたこともあって、ある意味、自分というものを初めて知る作品になるだろうなと思っています。裸になるような気分ですね(笑)」

三浦涼介らしいオイディプス王とはどんな人なのだろうか。

「人との距離が近い人というのかな。オイディプスは王だからと権威の象徴として存在するのでなくて、人に寄り添うような姿が見えてもいいと思っています。この数年、僕自身、すごく悲しいことと向き合わなきゃいけないことが多かったので、この作品で描かれている不条理さと何か通ずるところがあるような気がして。過酷な運命を背負ったオイディプスに自分を重ねることもあります」

開幕まで約1ヶ月は「とても苦労した」と明かすいっぽうで、「できる限り悩みまくるのが自分に合っているような気がする」とも。

「基本的にどんな作品でも苦悩するんです。本当にスロースターターですし、共演者からも『何をそんなに悩んでいるの?』って言われることもあるくらい悩み症で(笑)。でも、ギリギリのところにいないとダメで、一個一個、自分で積んでいく作業をしないと自信が持てない。これはもう昔から変わらなくて。役があるから話せたり、強くなれたり、楽しい思いをさせてもらったり、いろんな場所に連れていってもらえるというのがあって、だからこそ、役を理解して役としてステージに立ちたいという思いがすごく強いんだと思います」

俳優デビューは’02年。『3年B組金八先生』『仮面ライダーオーズ/OOO』などに出演し、若くして注目されたが、俳優の仕事はすぐに辞めると思っていたという。

「20年後の自分がこんなにもお芝居に没頭しているなんて、当時は想像もしていなかったですね。ただ、僕には常に導いてくれる人がいて、『次はこういう作品をやってみたら』『こういう演出家とやってみれば』とレールを敷いてくれた。それが今、その導きがなくなってしまって、初めて自分で探した道を進むという経験をしています」

そう語る三浦に「その導いてくれた人は誰か?」と尋ねると、4年前に亡くなった母親がそういう存在だったと明かした。

「どうしたらいいのかわからなくなってしまうこともありましたが、仕事を続けていることで心が休まるときもあって……。でも、おかげさまで、というか、自分を支えてくれる周りの人たちの存在に改めて気づくことができました。若いころから芸能界に入って、誰かが手を差し伸べてくれるのが当たり前で生きてきてしまったから、自分のそばにこんなに素敵な、優しい人たちがいっぱいいるんだと気づけたことはすごくよかったと思います」

また、役者として演劇の世界で成長してきた彼にとって、蜷川幸雄も導いてくれた人の一人。

「『わたしを離さないで』(’14年)という作品で蜷川さんに出会いました。当時は、この舞台が終わったら、芸能界を引退しようと思っていたのですが、蜷川さんと仕事をしていくなかで、『もっと蜷川さんと仕事がしたい』『もっとこの人を喜ばせたい』という思いが強くなって、それで結局、役者を辞めずに今がある。この仕事をしていると、たくさんの人と出会えるけれど、そのぶん別れも多い。内向的な性格ですが、いったん心を開くととことんだったりもするので、人との別れは本当に辛いんですよ。でも、だからと言って、先のことを考えていてもしょうがない。今、目の前にいる人と、目の前にあるものと精一杯向き合うことが大切だと思っています」

そんな三浦にとって癒やされるときは?

「わんちゃんと一緒にいるときですね。僕が20代前半のころに大阪で出会って、ペットショップから新幹線で連れてきたんですよ。もう13歳になりますが、その子の存在が癒しですね」

(ヘアメイク:春山聡子/スタイリング:村瀬昌広)

【公演情報】

パルテノン多摩リニューアルオープン1周年記念『オイディプス王』

<東京公演>2023年7月8日(土)〜7月17日(月・祝) パルテノン多摩 大ホール
<兵庫公演>2023年8月19日(土) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

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