<社説>トイレ制限違法判決 多様な性との共生契機に

 さまざまな性を自認する人々と共に生きる社会の在り方を考える契機としたい。 戸籍上は男性で、女性として暮らす性同一性障害の経済産業省職員が、省内で女性用トイレの使用を不当に制限されたとして、国に処遇改善を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は11日、制限は認めないとの判断を示した。

 裁判では、体の性と自認する性が異なる人が、自認する性別用のトイレを使うことができるかを争った。最高裁判決は一定の条件下であれば使用可能との結論を下した。性の多様性を尊重する社会の方向性を模索する上で重要な意味を持つ判決と言えよう。

 職員が性同一性障害の診断を受けたのは1999年ごろで、健康上の理由から性別適合手術は受けておらず、女性ホルモンの投与を受けている。許可を得て2010年から女性の身なりで勤務を始めたが、経産省は女性トイレについては勤務先フロアから上下2階以上離れた場所での使用に限定した。人事院は経産省の対応を是認する判定を下していた。

 経産省の対応について最高裁は「職員は自認する性と異なる男性用か、離れたフロアの女性トイレしか使えず、日常的に不利益を受けている」と指摘した。人事院判定に対しては「原告の不利益を不当に軽視するもので、著しく妥当性に欠く」と結論付けた。

 女性の身なりで勤務を始めて10年を超えている。経緯や省内の状況を考えれば妥当な判決だ。経産省は2010年に始めたトイレ使用制限を緩和する職場環境を整える必要があった。10年以上も不利益を受けてきた職員への配慮を怠ったと言える。

 最高裁判決の補足意見は、より明確にトイレ使用制限の問題を指摘した。いずれも共生社会の実現に向けた経産省内の取り組みを促すものだ。

 宇賀克也裁判官の補足意見は経産省の対応について「同僚の女性職員が原告と同じトイレを使うことに抱く違和感・羞恥心は、トランスジェンダーへの理解を増進する研修で相当程度拭えるはずだ」と指摘した。長嶺安政裁判官の補足意見は、経産省はトイレ使用制限を見直す責務があったと指摘し「自認する性別に即し社会生活を送ることは重要な利益だ」と論じた。

 この判決が、「不特定多数が使う公共施設の使用の在り方に触れるものではない」(今崎幸彦裁判長の補足意見)という点は考慮する必要はある。しかし、この判決の意義は経産省内にとどまるものではない。さまざまな性自認を持つ人々が暮らしやすい社会を目指す上で重要な提言がなされていると言えよう。

 トランスジェンダーに対する偏見を払拭するのは容易ではない。さまざまな意見の衝突も存在する。丁寧な議論を通じて克服しなければならない。今回の最高裁判決を、性多様性を尊重する社会を目指す歩みの指標とすべきだ。

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