アートに喝采、食ロス解決 食べられる染料「抹菜」誕生

「抹菜」を使った書道パフォーマンス(奈良市で)

有機野菜を活用 奈良・宇陀市の農園
廃棄せざるを得ない有機野菜を活用した染料「抹菜(まっさい)」が誕生した。手がけたのは、奈良県宇陀市で有機野菜10ヘクタールを栽培する山口農園と奈良市の一般社団法人Es。食べるだけにとどまらず、アートを切り口にした新たな食品ロス解決法として、子どもから高齢者まで幅広い層が参加できる書道体験などを通じて広めたい考えだ。

緑色の「食」の文字が大型の半紙に浮かび上がる。「抹菜」を活用した書道パフォーマンスとして、同農園と同法人が5月、奈良市内で開いたお披露目イベントでの一幕だ。

「抹菜」の原料は、同農園が有機JAS認証を取得して栽培する小松菜やチンゲンサイなど。一部の廃棄せざるを得ない野菜を使う。ペースト化した上で抹茶を加え、茶の油分で墨のように書ける染料にした。

同法人の下田英吾代表が同農園を訪問した際、食べられるのに捨てられる野菜の存在を知ったのがきっかけ。まずは常温で長期間保存できるペーストを2022年に開発したが、新型コロナウイルス禍で、外食需要が低迷したことを踏まえ、食べる以外の用途を模索。空気に触れたり熱したりしても緑色を保つことができるペーストの利点を生かし、「食べられる染料」が誕生した。

口に入れても安全 子ども・高齢者の書道体験に好評

イベントでは書道パフォーマンスだけでなく、書道体験も実施。家族連れに「これ食べてもいいんだって」「野菜で文字や絵が書けるなんて面白い」と関心を集めていた。

同農園の山口貴義代表は「子どもにSDGs(持続可能な開発目標)と言ってもピンとこないと思うが、楽しい体験なら関心を持ってもらえる。家族や周りの人にも広めてほしい」と期待する。

老人ホーム入居者を対象に「抹菜」を使ったアートや書道のコンクールも開いた。食べることができ、素手で触っても安全なため、筆が持てなくても手形を押して参加することができ、「ありそうでなかった製品」と好評だ。

食べられる染料「抹菜」
下田代表は「食べることだけにとらわれず、誰もが気軽に関われる体験を通じ、食ロス解決につなげたい」と思い描く。今後は各種イベントを通じ、「抹菜」を体験する場の提供に力を入れる方針だ。 本田恵梨

© 株式会社日本農業新聞