●「どこから手つけたら」
線状降水帯による大雨が石川県内を襲って一夜明けた13日、津幡町やかほく市では、住宅の浸水や土砂崩れなどの被害が続々と明らかになった。一面が泥に漬かった集落もあり、暑さの中、早朝から住民が畳や家具を外に運び出し、スコップを手に除去作業に汗を流した。住民は口々に濁流が家まで押し寄せた状況を振り返り、「まー、おとろしかった」と声を震わせた。
津幡町加茂では、道路や集会所の駐車場など全面が泥に埋まった。泥をかき出す作業に住民が協力して当たり、会社員の林賢勇さん(46)は「ここに住んで40年になるが、記憶にない水かさで恐怖を感じた。家まで入ってこなかったのが救いだが、泥の持って行き場がない」と困惑の表情を浮かべた。
津幡町では、12日夜に開設された4カ所の避難所に一時、60人が身を寄せた。町福祉センターで一夜を過ごした小林良樹さん(74)=津幡=は「玄関の1センチ手前まで水がきた。経営している会社の設備が大丈夫か不安しかない」と話し、足早に会社へ向かった。
同センターに朝まで避難した三村敏子さん(65)=倉見=は「自宅の後ろの川がどんどん水位を増していくので避難を決めた。自宅の被害がどれくらいか分からないし、近隣のお年寄りたちのことも心配」と顔を曇らせた。
宮一正樹さん(80)=清水=は、近隣住民に「水が押し寄せて大変ことになっている」と告げられ、慌てて車を近くの高台に移動させたという。1階の納屋の壁には地面から80センチの所まで水に漬かった跡があり、「本当に怖かった。今は少し落ち着いたが、片付けをどこから手をつけたらいいか分からん」と語った。
かほく市多田では、裏山の土砂が中西努さん(66)宅の台所や居間に押し寄せた。12日午後10時過ぎには道路が川のようになり、パリンと窓ガラスが割れる音ととともに土砂が流入したという。中西さんは「びっくりという言葉しか出てこない。どうやって片付けたらいいか、まだ何も考えられん」と途方に暮れた。
断水が発生したかほく市黒川で夫、孫2人の4人で暮らす山本信子さん(82)は「雨が降りすぎて断水だなんて。何をするにも不便だし、これからどうなるのか」と不安を募らせた。
かほく市と津幡町は職員が夜を徹して情報収集に努め、油野和一郎市長と矢田富郎町長は13、14日の県外出張を取りやめ、災害対策本部の指揮に当たった。