MOON-Xが目指す「共創型M&A」とは?長谷川CEOに聞く

「顧客の生活を豊かにするものづくりを実現している企業と一緒になって成長する」と語るMOON-Xの長谷川CEO

MOON-X(東京都目黒区)は「共創型M&A」を掲げ、2021年12月から2023年5月にかけて5件のM&Aを実施している。いずれもM&Aによる成長を達成しており、その手法が注目されている。同社がなぜ「共創型M&A」に取り組み、成功を収めることができたのか?長谷川 晋 最高経営責任者(CEO)に聞いた。

厳選したブランド企業と「共創型M&A」

-MOON-Xでは「共創型M&A」を成長戦略の要と位置づけています。これは創業時からのコンセプトだったのですか?

実を言うと、M&A自体は創業当初から思い描いていたわけではなかった。2019年8月の創業当初から、MOON-Xのミッションは一貫して「ブランドと人の発射台」。これは起業前に勤務していたP&Gで「素晴らしいブランドや製品は消費者の生活を豊かにする力があること」を実感し、続く楽天で「世界中で急速にショッピングが電子商取引(EC)に移行していること」を知った。

そこで2021年1月に自社アルコールブランドの「CRAFTX」、スキンケアブランドの「BITOKA」と「SKIN X」を立ち上げ、自社でブランド力のあるものづくりを手がけ、ECで販売するビジネスモデルを確立したのだ。

-自社ブランドでのものづくりとECの組み合わせが「共創型M&A」に切り替わったきっかけは?

「切り替わった」のではなく、「加わった」という認識だ。フェイスブックで手がけた「地方創生プロジェクト」を通じて、「日本全国に素敵なモノづくりをされている人や会社がたくさんある」と感じた。わが社のバリューの⼀つに「CONSUMER is BOSS(顧客こそが上司)」がある。顧客の立場なら、生活を豊かにしてくれる商品があるのなら、それがMOON-X製であろうが他社製であろうが関係ない。そこで顧客の生活を豊かにするものづくりを実現している企業と一緒になって成長しようと考えた。それが「共創型M&A」だ。

ー共創型M&Aと一般のM&Aの違いは?

「大が小を飲む」ではなく、買収した企業を成長させて高値で売り抜けるM&Aでもない。良いブランドを持ち、リスペクト(尊敬)できる企業と組み、M&Aでグループ入りした企業の理念や経営手法、人材を尊重して互いに長期的な成長を目指すのが「共創型M&A」だ。だから「一緒にやりましょう」と声をかける企業は厳選している。

-具体的には?

先ずは自社ブランド製品を持つブランドオーナーであること。次に、そのブランド製品をアマゾンや楽天、Yahoo!といった大手ECモールや自社サイトなどで販売していること。最後に経営が順調で、売り上げ、利益ともに成長している、売上高が1億〜数十億円規模の会社をイメージしている。

今年3月にグループ入りした太陽(東京都目黒区)は「ヒツジのいらない枕」や「ヒツジのいらないマットレス」でブランドを確立し、わが社の「Rest & Relax」事業を牽引(けんいん)している。同社はクラウドファンディングサイトの「Makuake(マクアケ)」で実施した約30件のプロジェクトにおいて、全て目標を上回った優良企業だ。


M&Aで地方の活性化にも貢献できる

ーそうした優良企業であれば、自社単独で生き残れます。M&Aの説得は難しいのでは?

確かにその通り。グループ入りの交渉は期限を設けず、相手先と柔軟に向き合う。ブランドビジョンや経営戦略などが擦り合っていないままで交渉を進めると後で困ることになるからだ。

とはいえ、いたずらに長引かせて良いわけでもないので、コミュニケーションは密にしている。太陽のRyo-san(川嶋 伶 社長)とは焼肉を食べながら将来ビジョンを語り合い、グループ入りを決めてもらった。

「共創型M&A」で合意した太陽の川嶋社長とMOON-Xの長谷川CEO(右)

わが社が声をかける企業は単独で生き残ることができる企業ばかりだが、単独ではできないがグループならばできることもある。声をかけた企業の成長を加速させ、ワクワク感がある魅力的な事業が展開できるメリットは大きい。そこがグループ入りの決め手となっている。

-共創型M&Aは、企業間だけでなく企業と地域との「共創」にもつながっているそうですね。

その実例は2022年8⽉にグループ入りした、ベビー&マタニティブランドのkerätä(ケラッタ)だ。ベビー&マタニティー用品の企画・開発・販売を手がけており、グループ入りすることでブランドが浸透し、ECによる販路が拡大した。かつてモノを売ろうとすれば人口が多い地域でなければ難しかったが、デジタルテクノロジーの発達でどこに本社があろうが関係なくなっている。

ケラッタは長野県塩尻市に本社を置く。ECは地理的な制約がなく、M&Aで東京の企業にこだわる必要はない。同社には非常に優秀な社員が多く、人材確保のうえでも地方企業に注目している。地方に高いブランド力を持つ成長企業があれば、地域貢献にもつながる。

単に雇用や税収をもたらすだけでない。ケラッタのようなワクワク感を実感できる仕事があれば、優秀な若い人材が地方に定着するだろう。地方自治体や地元メディアもMOON-Xの取り組みに注目しており、地域社会との共創に期待している。


-今後のM&A戦略は?

広いエリア(地方)とカテゴリー(業種)から、パートナー企業を集めたい。現在も全国で積極的に交渉を進めている。将来は海外企業も対象にしたい。わが社の経営メンバーには多国籍ビジネスの経験者が多く、組織として対応する能力は十分にある。

◎長谷川 晋(はせがわ・しん)氏
2歳から9歳まで米シアトルで育つ。京都大学経済学部卒。2000年に東京海上火災入社。その後、P&Gで10年間、マーケティングおよびマネジメントを統括。楽天に上級執行役員として招かれ、グローバルおよび国内グループ全体のマーケティング活動を主導した。2015年、Facebook Japanの代表取締役に。2019年8月にMOON-Xを創業、現在に至る。

「M&Aで事業規模とスピードが大幅に向上」 川嶋 伶 太陽社長

「M&Aの結果、ビジネスの規模とスピードは格段に上がった」と明かす太陽の川嶋怜社長

M&AはMOON-Xから持ちかけられた。正直、企業売却は全く考えていなかったが、Shin-san(MOON-Xの長谷川晋CEO)が語るグループの将来像と共創型M&Aの理念に共感。グループに参加することで、より⾰新的な製品を開発し、グローバルも⾒据えるような広い視点が持てると感じた。M&Aに当たってMOON-Xとは1年以上話し合いをしている。事業計画やブランドの将来について話し合い、同社となら双⽅の知識やノウハウを活⽤しあって、これまで以上に顧客に寄り添った製品を開発し、喜ばれる体験を提供できると考えて踏み切った。実際にM&Aの結果、(太陽の)ビジネスの規模とスピードは格段に上がっている。M&Aと同時にMOON-XのRest & Relax事業⻑に就任した。これからはMOON-Xグループ全体の成長にも貢献していきたい。(談)

◎川嶋 怜(かわしま・れい)氏
日本大学大学院在学中に休学し、専門学校でデザインを学びながら2019年に太陽を設立。復学後に経営学修士号(MBA)を取得し、製品の企画・販売に当たる。2020年にMakuakeで発売した「ヒツジのいらない枕」は、累計販売で9万個を超えるヒット製品に。2023年からMOON-XのRest & Relax事業長を兼務。

取材・文:M&A Online 糸永正行編集委員

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