『エクソシスト』から50年! ラッセル・クロウが最強の悪魔と対峙する『ヴァチカンのエクソシスト』

飯塚克味のホラー道 第52回 『ヴァチカンのエクソシスト』

ウィリアム・フリードキン監督の『エクソシスト』(1973)が日本で公開されたのは、1974年の夏。日本中が大ブームになり、一躍、エクソシストという言葉が老若男女の間で認知されていった。それから約50年後の現在。今も変わらず、ホラー映画のアイコンとして悪魔と戦い続けるエクソシストたち。実際のところ、彼らは存在するのだろうか?具体的にどんな仕事をしているのか?本作はそんな疑問に答えてくれる「悪魔祓い」の映画である。

本作は実在の神父ガブリエーレ・アモルトの自伝『エクソシストは語る』『続・エクソシストは語る』を原作としている。その中では、悪魔に憑りつかれたとする事例のほとんどは精神疾患で、そう思い込んでいるだけだと断言しているのが、なかなか興味深い。この「ほとんど」というのがくせ者で、中には本物もあるということなのだ。

ストーリーは至ってシンプル。悪魔祓いを行いつつ、憑依した人物に質問を繰り返し、それが本当の悪魔かを見極めることができるヴァチカンのチーフ・エクソシスト、アモルト神父。ヴァチカンはそんな彼を邪魔者扱いし、重要なポジションから追い払おうと画策していた。だが教皇の信頼厚い彼は、修道院で起きた悪魔憑きの事件を解決するよう直接依頼される。現地に向かった彼が向き合うのは、本物の悪魔だった。

主演は『グラディエーター』(2000)のラッセル・クロウ。最近は『アオラレ』(2020)での凶悪なドライバー役や、『ソー:ラブ&サンダー』(2022)のやりたい放題のゼウスなど、幅の広い役柄に挑んでいる。本作ではマックス・フォン・シドーが演じた『エクソシスト』のような生真面目な神父ではなく、修道女を見かけると「カッコー」と、ちょっと茶目っ気ある声をかけたり、移動にはスクーターを使うなど、チャーミングな一面を持つ人物になっていて、ラッセルの名演を楽しめる。因みにラッセルは本作がホラー初出演とのことだ。また『続・荒野の用心棒』(1966)、『ダイ・ハード2』(1990)のフランコ・ネロが教皇役で、わずかな出番ながらも印象を残している。

監督は『オーヴァーロード』(2018)で、ナチスの戦争映画とゾンビをミックスさせたジュリアス・エイヴァリー。『オーヴァーロード』では、やや冗長となる場面があったが、本作では無駄な描写を省き、テンポの良い演出で見せてくれる。

実際のアモルト神父は2016年に他界。回顧録はベストセラーになり、他にも映画化権を獲得しようとしたプロデューサーはいたそうだが、誰も説得できなかったという。結局、本作のプロデューサー、マイケル・パトリック・カツマレクが、生前に映画化権を取得できたのだが、それについてカツマレクは「自分が偽りない信仰心を持っていることをアモルト神父に納得してもらえたからだ」と語っている。「映画の中でカトリックについてきちんと描くよう努めるし、一人の人間としての彼、そして教会や修道会にも敬意を払う」ことを約束したのだ。完成した映画をアモルト神父に観てもらえなかったことはつくづく残念だが、きっと喜んでくれたに違いない。

実話を基にしたエクソシスト系のホラー映画は2005年の『エミリー・ローズ』や、アンソニー・ホプキンスが主演した『ザ ・ライト -エクソシストの真実-』(2011)などがあるが、どれも力作ぞろい。本作もその系列に加わるレベルに達している。暑い夏にぴったりの作品なので、是非冷房の効いた映画館で震え上がって欲しい。そしてエンドロールの後にはアモルト神父の顔も拝めるので、できることなら一番最後まで見るべきだろう。


飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
ヴァチカンのエクソシスト
2023年7月14日(金)全国の映画館で公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©2022 Oorah Productions LLC.All Rights Reserved.

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