「地元の味」喪失感 茨城・桜川の老舗しょうゆ醸造火災 直売所など品切れ相次ぐ 給食センター別業者へ手配

鈴木醸造の商品が品切れとなった直売所「加波山市場」の売り場=桜川市鍬田

茨城県桜川市真壁町古城のしょうゆ醸造業「鈴木醸造」で国登録有形文化財の「主屋(しゅおく)」など4棟が全焼し、地域に喪失感が広がっている。大正時代創業の老舗商品は、長年親しまれた「地元の味」。各店舗では品切れが相次ぐ。学校給食に使っていた同市と同県石岡市の給食センターは、急きょ別業者への手配に追われている。

桜川市真壁町山尾の「真壁さわやか直売所」では、火災後から陳列棚の一角が閑散としている。鈴木醸造の商品があった場所だ。

「いつも絞りたての新鮮な商品を持ってきてくれていた」。女性店員(70)は寂しそうに空の棚を見つめた。

同社のしょうゆやみそは、地元住民のほか「市外に引っ越した人も『しょうゆだけはこれを使いたい』と買いに来ていた」。火災翌日に品切れとなり、現在も商品を求める問い合わせは絶えない。

同社は1925(大正14)年、しょうゆとみその醸造元として創業。しょうゆは当初から同じ杉桶(おけ)を使い、1年以上発酵・熟成させて造る。人気商品は、原料に地元産の小麦「ユメシホウ」と大豆を使った「真壁」。ユメシホウの活用を推進する鈴木真美子さん(71)は「地元の農作物を生かそうと、5年以上前からユメシホウを使ってくれた。桜川をPRできる大事な商品」と話す。

杉桶仕込みのまろやかな風味は、地元で長年愛されてきた。直売所の女性客(67)は「違うしょうゆを使うと息子がすぐに気付く。こくがあって辛みがなく、刺し身や煮物に使っていた。そう簡単に替えが利かない」と肩を落とす。

影響は学校給食にも及んだ。市学校給食センターによると、小中学校や義務教育学校の給食に使っていたのは同社商品。火災翌日の給食分は既に調達を受けていたが、4日以降は別業者への手配を余儀なくされている。

同センターの担当者は「地産地消に力を入れており、できるだけ地元産を使いたい」と説明。同じく小中学校の給食に使用していた石岡市も、桜川市と同様の対応を取ったという。

同社ファンは市内にとどまらない。同社商品が全て品切れとなった同市鍬田の直売所「加波山市場」の勝田浩幸さんは「火災後、大洗町から来たお客さんに在庫切れを伝えるとショックを受けていた」と話した。また、筑西市川澄の道の駅「グランテラス筑西」でも観光土産として人気を集めていたという。

一方、火災現場は、重機による解体作業が始まっている。同社の鈴木正徳社長(58)は、再建に時間がかかることを念頭に「少しずつ機材をそろえ、一歩ずつ進んでいきたい」と語った。

火災は2日午前0時23分ごろ発生、醸造所から出火したとみられる。国登録有形文化財で明治初期に建てられた「長屋門」は無事だった。

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