映画プロデューサーってどんな仕事?『フォードvsフェラーリ』製作者が語る「マーケと宣伝」「A24という成功例」「業界のジェンダーバランス」【後編】

『フォードvsフェラーリ』© 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.

「作品にとって最高のバージョンは、製作前に思い描いていたもの」

『フォードvsフェラーリ』(2019年)や『ドリーム』(2016年)をアカデミー賞作品賞候補に導き、90年代後半から多くのヒット作に携わってきた映画プロデューサー、ジェンノ・トッピング。インタビュー前編では、『フォードvsフェラーリ』制作にまつわる様々なエピソードや大ヒットの要因について語ってくれた。

では、そもそもプロデューサーとはどんな仕事なのか。映画をよく観る人にとっても、その実態はなかなかわからない部分が多いはずだ。ジェンノは現在、制作会社チャーニン・エンタテインメントで、映画およびTV作品の最高責任者を務めている。チャーニンとは、映画プロデューサー/実業家として知られるピーター・チャーニンだ。

プロデューサーの定義があるのなら、逆に教えてほしいくらいです(笑)。人々がその定義に混乱するのは、さまざまな関わり方が存在するからでしょう。題材を見つけるのがプロデューサーなら、資金を調達するのもプロデューサー、実際に撮影現場を仕切るのもプロデューサーだし、以上のすべてを担う人もいるくらいです。クレジットに名前が載っていても、ほとんど実務として関わらないプロデューサーもいます。

私とピーター(・チャーニン)がプロデューサーとして重要視するのは、最高の才能と仕事をすること。そのためには“真ん中を抜かす”のです。つまり平凡なことはやらず、極端でも大きなチャンスを狙うのです。私たちの会社はスタジオと契約を結ぶことで、資金調達に関わる必要はありません。ピーターは撮影後のポストプロダクションに深く関与し、いかに作品を観客や視聴者に届けるべきか、マーケティングや宣伝で才能を発揮します。そして私が予算の編成や人材の雇用、撮影全般を担います。

よく言われるのは「その作品にとって最高のバージョンは、製作前に思い描いていたもの」ということ。そこから演じる俳優の名が消え、ロケ地の候補がなくなり、予算がオーバーしてシーンがカットされ……と、どんどん理想から離れていきます。多くの妥協が始まり、そこでのやりとりもプロデューサーとしての重要な仕事です。

「女性の活躍は顕著、でも“監督”の割合は少ない」

いまハリウッドはもちろん、世界的にジェンダーのバランスが問われている状況だが、スティーヴン・スピルバーグ監督作品を初期から手がけるキャスリーン・ケネディのように、プロデューサーでは女性の活躍が目立っているように感じる。実際にそうなのか。一方で監督となると、まだまだ女性の割合は少ないようだが……。

たしかにLAやNYには歴史的に成功した女性プロデューサーが多数います。そしてプロダクション・デザイナー、衣装デザイナー、キャスティング・ディレクターでも女性の活躍は顕著です。それが「監督」となると女性の割合が少ない現状なので、私たちはそこを修正すべく努力を続けるべきでしょう。たとえば失敗作を1本撮った場合、男性監督は次のチャンスにも困らないのに、女性監督は選択肢が減る……というのも現実なんです。

「映画館の状況は、かつてのように戻ることはない」

ここ数年、劇場公開にこだわる作品と、配信用に作られる作品という棲み分けもできつつある。この点をハリウッドの一線で活躍するプロデューサーとして、どう捉えているのだろうか。

私自身は“古い”価値観の人間なので、今も、そしてこれからも劇場で映画を観ることを愛し続けます。一方で配信の活況によって、多様な映画が製作できていることも確かです。『フォードvsフェラーリ』のようなドラマや、コメディのような中規模の作品が劇場のビジネスでは苦しいとされても、配信業界が受け皿になっています。

サブスクビジネスの配信では、個々の作品のヒットは重視されません。ですから私たちも、Netflixとファーストルック(※優先交渉権)の契約を結んだのです。現在の私たちの大きな目標は、その作品が劇場向きか配信向けか、最適なプラットフォームを選択できる、独立したスタジオとなること。A24は、その部分での成功例でしょう。

こうしたハリウッドの業界の変化は、さらに加速度的に進むのだろうか。あるいは、しばらくこのままの状態が続くのか。

10年前と比べると、ハリウッドにおける映画やドラマの製作環境は大きく変わりましたが、とくにこの3年間は激変の時期でした。業界の動向を察知するのが得意なピーターですら「現状を把握するのは難しい」と話しているくらいです。

断言できるのは、配信は現在のまま継続される一方、映画館の状況はかつてのように戻ることはない、ということ。映画館で観られる作品は、よりスペクタクル化が進み、イベントムービーに限定されていくでしょう。北米のマーケットだけでは限界があるので、今こそ国際的な視野でチャンスを見つけるタイミングではないかと感じます。

「A24の新作ミュージカルは狂気の沙汰と言ってもいい奇抜な世界」

一瞬先も予測不能な映画業界とはいえ、ジェンノ・トッピングがプロデュースする作品は、今後も途切れない。“あのシリーズ”の最新作など、かなり注目すべき作品がいくつも揃っている。

2024年には『猿の惑星』最新作が公開予定です(ピーター・チャーニンとともに『猿の惑星:創世記』に始まるシリーズの新作を手がけている)。そして『バック・イン・アクション(原題)』は、キャメロン・ディアスが活動休止を経て(2014年の『アニー』以来)本格的に仕事に戻ったアクションコメディ。私はキャメロンとは『チャーリーズ・エンジェル』で仕事をしていますし、共演のジェイミー・フォックスは世界で最も面白く、才能のあるスターです。同時にこの作品は、私が慣れ親しんだ王道のアメリカ映画のテイストも備えており、Netflixなので家族みんなでソファに座って楽しめるはずです。Netflixといえば、『刑事ジョン・ルーサー フォールン・サン』の次回作も控えていますね。

また、私たちのポリシーでもある“振り切れた”作品として、A24のためにゲイのミュージカルを作っています(『ファッキン・アイデンティカル・ツインズ(原題)』)。狂気の沙汰と言ってもいい奇抜な世界で、興行的には予測不能ですが、ネイサン・レイン、ミーガン・ムラーリー、ミーガン・ジー・スタリオンという豪華キャストを集めました。『ロッキー・ホラー・ショー』(1975年)のように劇場でみんなで大騒ぎして楽しめる作品を目指しています。

さらに私も楽しみなのが、『Casa 69』と呼んでいる企画。チリのポッドキャストを原作に、世界規模の大事件をSF的に描きながら壮大なラブストーリーになる、ちょっとドゥニ・ヴィルヌーヴ作品を思わせる映画になりそうです。キャストも監督も大物を予定しており、今から興奮しています。

プロデューサーという職業は「途方に暮れるほどの迷いがつきまとう」と語るジェンノ・トッピング。その際には「つねに作品の全体像を捉える視点が要求される」という。『フォードvsフェラーリ』のような傑作を送り出す彼女のチャレンジは、これからもハリウッドの最前線で続いていく。

取材・文:斉藤博昭

『フォードvsフェラーリ』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「YKK AP ムービープラス・プレミア」「特集:最速カーアクション!」で2023年7月放送

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