<インタビュー>ブレット・モーゲン監督、映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』を語る「この映画はボウイそのものだ」

2016年1月に惜しまれながら69歳でこの世を去ったデヴィッド・ボウイ。その比類なき芸術性とキャリアに焦点を当てたボウイ財団唯一の公式認定ドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』が、2023年3月24日から全国公開された。

監督を務めたのは、ザ・ローリング・ストーンズの結成50周年を記念した『クロスファイアー・ハリケーン』、故カート・コバーンの半生を描いた『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』などを手がけた、音楽ドキュメンタリー作品の名手ブレット・モーゲン。財団が保有している貴重な映像に加え、全編ボウイの名曲の数々と本人のナレーションによって紡がれる新感覚の“IMAX音楽体験”となっている。映画公開に先駆けて、2月上旬に来日したモーゲン監督が、作品に着手することになった意外な経緯や劇中に登場する貴重なライブ映像などについて語ってくれた。

――過去に、デヴィッド・ボウイ本人に映画制作のアイデアを持ちかけたことがあったそうですね。映画『ムーンエイジ・デイドリーム』の企画は、どのようなきっかけで実現したのでしょう?

2007年にデヴィッドと会った際、ハイブリッドなノンフィクション映画でコラボレーションしたいと打診しました。今作『ムーンエイジ・デイドリーム』とは全く異なる内容で、彼に役者として50日ほど撮影に参加してもらうことを想定していたんです。彼は、私のプレゼンに心から感謝してくれたのですが、当時ほぼ引退状態だったので企画が実現することはありませんでした。

そして2015年に『COBAINモンタージュ・オブ・ヘック』を完成させた後、音楽ドキュメンタリーというジャンルで新たに開拓できるエリアを探していましたが、これ以上できることはないと感じていました。その際に、自分が常に興味を持ってきたのは、映画的な体験を作り出すことだと気づき、“IMAX音楽体験”というアイデアを思いつきました。約40分の映画のような音楽映像シリーズを、博物館や科学館などのIMAXで、閉館後のプログラムとして上映するというものです。午後7時にザ・ビートルズ、8時にデヴィッド・ボウイ、レッド・ツェッペリン、9時にビヨンセ、10時にマイリー・サイラスなど、様々なアーティストをピックアップし、それをローテーションするんです。このアイデアを、当時BMGノース・アメリカで働いていた友人に話すと、BMGのCEOにアイデアをプレゼンするように言われました。その数週間後にCEOがLAに来た際に話したら気に入ってくれて、10本の短編を作る契約を結んでくれたんです。

まず、ザ・ビートルズの作品の制作を進めようとしていたところ、2016年初頭にデヴィッドが亡くなりました。彼の遺族に連絡を取り、このシリーズの第一弾に最もふさわしいアーティストであることを伝えたんです。こうして約7年間におよぶ旅路が始まり、40分の短編映画ではなく、デヴィッドの創造性とキャリアを通じて人生をポジティブに捉えるように促す映像体験を作り上げたんです。

――博物館などでアフターファイブに限定上映されるためだった作品が、世界中のIMAXで公開されることになったのは喜ばしいことですね。

私のノンフィクションに対する興味は、もっぱら演劇的なものです。主に音を使って描いたり、音を使って仕事をすることに興味があります。多くの人が映画を“見る”と言いますが、私は映画を“聞く”ことが好きなんです。自分の作品の中でも特に今作がIMAXで世界上映され、観客がこの映画の冒険的な精神を温かく受け入れてくれたことは、とてもエキサイティングですし、クリエイターとして満たされますね。

――この映画は、デヴィッド本人のインタビューの抜粋や歌など、その声のみで語られています。彼の内省的で哲学的な部分を通じて作品を描く上で、どのような点に苦労されましたか?

ストレートな伝記映画を作るのはとても簡単です。その人の人生をウィキペディアのように追っていけばいいのですから。体験を作り上げること、それがあまり伝記的にならないように自制することに関しては本当に準備不足で、私にとって大きな挑戦でした。非常に豊かな物語が紡がれていく映画ですが、それがサブテキストに埋もれていて、歪像しているように感じられるようデザインされています。従来のストーリーテリングの手法だとあまり気にしないことですが、その部分と戦わなければなりませんでしたね。

――デヴィッドが、映画冒頭で故ファッツ・ドミノや芸術の神秘について話すインタビュー映像は特に印象的で、まるで今作を体現したような発言でもありました。

この映画は、デヴィッドのアートに対する考え方を反映したもので、彼のアートに対する考え方を取り入れたり、採用しながら構成されています。彼はこのようなシーンで、自身の作品についてだけでなく、観客が体験している作品についても言及しているのです。今作は、最初から最後までデヴィッドからヒントを得ながら完成させました。彼のアイデアを受け入れることで、彼についてというよりも、デヴィッド・ボウイそのものを映画というメディアで表現できたのではないかと思います。

――デヴィッドは、映画の中で時間、死と孤独、信仰、カオスなど、さまざまなテーマに触れています。監督自身、特に心に響いたテーマはありますか?

デヴィッドの死生観は、特に心に響きました。というのも、この映画を作り始めて間もないことに私自身が心臓発作を起こし、1週間昏睡状態に陥ったということがありました。臨死体験をしたばかりだったので、デヴィッドが常に口にしていた命や人生への感謝、毎日を精一杯生きるという考え方には深く共鳴しましたね。

――デヴィッドが、故ジェフ・ベックのギターに合わせて、ザ・ビートルズの「Love Me Do」をカバーするライブ映像など、今作には音楽ファンにとって嬉しい未公開映像も多く含まれています。

1973年にD・A・ペネベイカーが監督したドキュメンタリー『ジギー・スターダスト』のために撮影された映像で、当時ジェフが自分の衣装を気に入らなかったので、デヴィッドにオリジナル版に入れないようにお願いしたものだったそうなんです。

なんだか可笑しいですよね。ジェフは普段着みたいな格好をしていて、バンド・メンバーは全員“スパイダーズ・フロム・マーズ”の衣装を着ていたので、自分だけ浮いているように感じたそうなんです。でも、今見返してみると、「何を言っているんだ?」って感じで(笑)。

――1978年の英ロンドンのアールズ・コート公演の映像も素晴らしかったですが、『欲望』などで知られる俳優のデヴィッド・ヘミングスが監督したものと聞いて驚きました。

あの映像は、実現しなかったコンサート映画のために1978年に撮影されたものです。そのままの状態で見つけたので、私がすべて変換しました。ボウイのキャリアを通じて撮影された、最も素晴らしいパフォーマンスであることは間違いないですし、とても希少なものだと思いますね。もしかしたら、ボウイによる最高のパフォーマンスの一つを捉えているかもしれない。

――加えて、日本で撮影された写真や映像が多く含まれているのは、日本のファンにとって嬉しいポイントですね。

デヴィッドと日本の間に、特別な関係性があったことは明らかです。彼が最も多作で世界中を旅していた時期、心から日本のことを故郷のように考えていたのではないでしょうか。彼の精神的な思想や創造性は東洋寄りのものでしたし、自分の世代や多くの西洋の人々に歌舞伎を紹介しました。そこに飾ってある日本版ポスターに起用されている鋤田正義さんが撮影した彼の姿を見て思うのは、彼が流行のためにやっていたのではないということ。東洋の宗教や哲学、文化や芸術とのつながりや相乗効果を本当に感じていたんだと思います。

――最後に、本作の制作を通じて、デヴィッドに対する印象が変わったり、広がったりしましたか?

もちろんです。毎日、そして常に。自分にとって無限のインスピレーション源であり、永遠の探求・研究対象なので、今でも毎日彼の音楽を聴いていますよ。

Interview: Mariko O.

◎公開情報
『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』
監督・脚本・編集・製作:ブレット・モーゲン『くたばれ!ハリウッド』『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』
音楽:トニー・ヴィスコンティ(デヴィッド・ボウイ、T・レックス、THE YELLOW MONKEYなど)
音響:ポール・マッセイ『ボヘミアン・ラプソディ』『007 ノータイム・トゥ・ダイ』
出演:デヴィッド・ボウイ
IMAX / Dolby Atmos同時公開中
配給:パルコ ユニバーサル映画
(c)2022 STARMAN PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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