社説:認知症の不明者 地域で親身な見守りを

 認知症の人が行方不明になる件数が増え続けている。

 全国の警察への届け出は、昨年1年間に延べ1万8709人に上り、この10年間でほぼ倍増した。家族にばかり責任を押し付けないよう地域社会の日常的な見守りが欠かせない。

 前年比で1073人(6.1%)増え、10年連続で最多を更新した。京都が579人、滋賀は177人だった。

 統計を取り始めた2012年は9607人だったが、翌13年に1万人を突破し、急速な高齢化を背景に、その後も歯止めがかからない。現実を重く受け止めたい。

 生存して所在確認されたのは、21年以前の届け出分を含め1万7923人を数えた。確認までの期間は77.5%が受理当日、99.6%は1週間以内だった。一方で徘徊(はいかい)中に事故に遇うなどして491人が亡くなったのは痛ましい。

 認知症は25年には700万人に達し、65歳以上の5人に1人が患うとされる。外歩きを抑制するのは難しく、行方不明者はこれからも増えるとみられる。

 どこかで迷っていないか、倒れていないか、と案じる家族のつらさは察するに余りある。

 発見に手間取れば、けがをしたり命に関わったりするリスクが高まる。だからこそ速やかな所在確認に向けた対策強化が鍵となる。

 警察庁は14年から多くの人の目で捜す「SOSネットワーク」の構築を自治体ごとに促してきた。届け出を受けた警察が、自治体や町内会のほか、鉄道やバスなどの公共交通機関、郵便局やコンビニなどにも不明者の特徴や服装を速報し、似た人を見つけたら連絡してもらう仕組みだ。

 京滋でも見守り体制が整い、官民連携が奏功しつつある。道に迷った高齢者を捜す訓練や店舗での対応講習など、市民レベルの取り組みが広がっているのも心強い。

 事前に徘徊に備える対策も欠かせない。捜索に役立つ衛星利用測位システム(GPS)の小型端末を持たせたり、家族などの情報を読み取れるQRコードを衣服に付けたりするなど、情報通信技術(ICT)を積極的に活用したい。

 認知症基本法が先の国会で成立した。認知症の人が尊厳を保持し、希望を持って暮らせる施策を総合的に推進するのが狙いだ。

 認知症になっても、住み慣れたわが家で暮らし続けたいと考えている人は多い。地域で親身になって見守り、迷っても速やかに見つけられる仕組みづくりを一歩ずつでも前進させたい。

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