映画館、出演者からは不安も…異例の“宣伝しない宣伝”『君たちはどう生きるか』の賭け

(写真:時事通信)

7月14日、ついに公開日を迎えたスタジオ・ジブリの最新作にして、宮崎駿監督による10年ぶりの新作でもある劇場用長編アニメーション映画『君たちはどう生きるか』。徐々に情報が明らかにされているが、関係者たちの心境は戦々恐々のようだ。

’13年公開の映画『風立ちぬ』を最後に長編映画の制作から引退することが発表されていた宮崎監督だが、’17年2月に長編映画制作に取り組んでいることが明かされ、同年10月に新作のタイトルは『君たちはどう生きるか』になると発表された。

しかし、昨年12月に公開日は発表されたものの、出演者や主題歌の情報はおろか映画の具体的な内容さえも一切明かされず。そして6月には、スタジオジブリの代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫氏が、一切宣伝を行わない方針であることを明言。6月28日に都内で開催された「金曜ロードショーとジブリ展」の開会セレモニーに出席した際、鈴木氏はその理由についてこう語っている。

「いままでいろいろな情報を出しすぎていて、観る方の興味を削いでしまっていたのかもしれないと思ったんです。最初は通り一辺倒の宣伝だけでもしようかなと思っていたのですが、一切宣伝しなかったらどうなるのか興味があった。これだけ情報化された時代に、情報がないことが、エンターテインメントになると思ったんです」

最近では、昨年12月に公開されたアニメーション映画『THE FIRST SLAM DUNK』が事前にあらすじを公開せずに国内興収140億円超えという偉業を成し遂げている。しかし、今回のジブリ新作の徹底した“宣伝ナシ”ぶりは類を見ないと、ある映画関係者は言う。

「『THE FIRST SLAM DUNK』はあらすじこそ明かしていませんでしたが、声優キャストや全貌を明かさない予告編などを小出しにして期待感を高め、その結果大ヒットしました。

しかし、『君たちはどう生きるか』はチラシ、予告編も作らず、すべての情報を明かさないという徹底ぶり。事前の試写会さえも行っていないといいます。映画の内容を公開日までほとんど明かさないというプロモーションは今までもありましたが、ここまで隠した映画は聞いたことがありません。内容に絶対の自信があり、公開されたら口コミで話題になることを確信しているのだと思いますが、かなりの賭けであることは間違いありません」

異例ぶりはそれだけではない。通常は公開と同時に映画館で発売される作品パンフレットも上映劇場および通信販売にて後日販売されることが明かされている(発売日は未定)。

これまで『天空の城ラピュタ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』といった数々の名作を生み出し、興収面でも特大ヒットを連発してきたジブリと宮崎監督。そんな宮崎監督の10年ぶりの新作、かつ事前の情報もないとくれば観客の期待感は高まるばかりだが、携わる関係者にとってはそうではないようだ。

「“宮崎監督の新作”というネームバリューは、日本の映画業界では最強クラスの効果があることは間違いありません。これまで数々の国民的映画を送り出してきたジブリと宮崎監督だけにファンの数も計り知れないほどいますし、事前情報がなくても見に行く人は多いでしょう。

とはいえ、ここまで一切宣伝をしなかった作品の前例がないのも事実。鈴木プロデューサーも宮崎監督から『宣伝しなくて大丈夫かな?』と心配されたことを明かしていますし、ある出演者も興収面への不安を周囲に漏らしていたといいます。実際、SNS上では、“ジブリの新作が公開されることを知らなかった”という声も目にします。

映画館にとっても同様で、事前の情報がないゆえに一日の上映回数やスクリーンの大きさを決めるのにかなり苦慮したといいます。作品を見た流れで購入する人が多いパンフレットが後日販売、かつネットでも買えるというのも、劇場の収入面にとっても痛手です」(前出・映画関係者)

東京・立川にあるシネコン「CinemeCity」の6月30日に公式Twitterで、同館の室長の言葉をこう紹介している。

《チラシも予告編もなければ公式HPもない、まったく宣伝しないという前代未聞のスタイルで挑む、全世界待望の宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』は完全に秘密のヴェールに包まれており「冒険活劇ファンタジー」であること、宮崎監督の伝記的要素のある作品であるということだけが、発表されている。期待しかないのだが、映画館スタッフとしては心配で仕方ないという二律背反》

出演者、映画館も巻き込む、鈴木プロデューサーの“宣伝しない宣伝”スタイル。しかし、大きな賭けに出られる理由があるという。

「これまでのジブリの映画といえば、様々な企業が資金を出資する製作委員会方式がほとんどでした。この方式の場合、ヒットさせて資金を回収する必要がありますから、内容や宣伝方式などにおいて、出資企業の意向を少なからず反映させる必要があります。

ただ、今回の『君たちはどう生きるか』はスタジオジブリの単独出資で製作されています。製作費をジブリですべて出している以上、ヒットしなければ大幅な赤字を背負うリスクもありますが、内容や宣伝方針について口を出す“部外者”もいません。ジブリとしては、それだけこだわって『君たちはどう生きるか』を作ったということでしょうし、覚悟のあらわれなのだと思います」(前出・映画関係者)

公開日を迎えて、声の出演者として菅田将暉、木村拓哉や柴咲コウといった豪華俳優陣が務め、主題歌を米津玄師が担当することが判明している『君たちはどう生きるか』。果たして、ジブリの“賭け”はどう活きるのか――。

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