金正恩の命令を無視して進む「新興金持ち」の住宅づくり

北朝鮮政府は近年、なし崩し的に進んできた市場経済を押しとどめ、1980年代以前の計画経済に戻そうとする政策を進めている。

市場で幅を利かせる「トンジュ(金主)」と呼ばれるニューリッチの台頭を抑え込み、すべてを国家の統制化に置きたいたいという目論見があるのだろう。しかし、トンジュは当局にとって重要な資金源でもある。彼らなくしては様々なプロジェクトは進まないのだ。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)人民委員会(道庁)は、トンジュと手を結び、老朽化した住宅の修理事業に乗り出した。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

金正恩総書記は近年、口を酸っぱくして「非社会主義的現象の根絶」を主張している。社会主義に似つかわしくない現象はすべて根こそぎにせよ、ということだが、行政機関が「プチ資本家」と言えるトンジュに頼ることは、厳密に言えば命令違反だ。

しかし、中央から予算をもらえない地方の行政機関としては、背に腹はかえられない。

咸鏡南道人民委員会は今月6日、今年下半期の住宅建設計画を達成するため、トンジュと手を結んだ。住宅を新築する以外にも、老朽化した住宅の修理事業も共同で行う。

住宅の修理は、居住者本人が行うのが一般的だが、地方政府が乗り出したのはそれなりの理由がある。

人民委員会は、今年上半期の住宅計画を達成できなかったことについて、厳しい総和(監査)を受けた。当然、下半期の住宅建設にも厳しい監視の目が向けられるが、達成は難しい状況だ。そこで、老朽化した住宅を修理することまで含めて、計画達成の数に含めることにしたという。

人民委員会と業務契約を結んだトンジュに家の修理を任せた世帯は、咸鏡南道住宅建設総指揮部を通じて、セメント、砂、木材などを市場価格の半分の値段で購入できる。人民委員会は、資材調達もトンジュに丸投げすることで手間を省けるのだ。また、トンジュも通常価格よりは安いとは言え、大量の資材を売ることができ、かなり儲かる。

人民委員会は、家を修理しようとする人にこのように伝えたという。

「どうせ市場で建築資材を購入しなければならないのだから、商人の懐を肥やすのではなく、国にカネを支払い堂々と買えばいい。そうすれば国と個人(トンジュ)の両方の得になる」

同様の動きは、羅先(ラソン)市や平安南道(ピョンアンナムド)でも見られる。

新築住宅の建設の場合、当局はトンジュから投資を募って建設を行い、完成後に見返りとして何部屋かを売り渡す。トンジュはそれを転売することで儲けるという仕組みができていた。

今回の場合、中古住宅の修理においても、当局とトンジュがコラボした形だが、このようなやり方が定着するかは未知数だ。中央政府が横槍を入れる可能性があるからだ。

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