<社説>生成AIの普及 危険直視し国際ルールを

 急速な人工知能(AI)の進化に、どのように向き合うべきなのか。文章や画像、音声を生成できる「生成AI」の開発、普及が進んでいる。われわれの社会に大きな変革をもたらす可能性もあり、その正と負の両方の側面を見据える必要がある。 生成AIは、インターネット上にある大量のデータを学習し、自然な表現で質問に答えたり、専門的な知識がなくても利用者の求めに応じて文章や画像、音楽などを作成したりすることができる。

 米新興企業オープンAIが開発した対話型の「チャットGPT」の大流行を受け、米IT大手のグーグルやマイクロソフトも生成AIの技術を活用した対話型ソフトを発表するなど開発競争が激化している。

 企業や行政では業務での生成AIの活用に向けて動き出している。業務の効率化や生産性の向上、新たなサービスの創出につながるとの期待がある。政府内でも、松本剛明総務相が、省内の業務で試験的に利用する考えを表明している。

 一方、生成AIを巡っては個人情報の不適切な収集や機密情報の漏えい、偽情報の拡散、著作権侵害、サイバー攻撃の巧妙化など懸念も多い。

 生成AIを使えば、本物と見分けがつかない偽情報を容易に作成できる恐れがあり、社会を混乱させるリスクが指摘されている。また、学習したデータに誤りや偏見があっても、そのまま回答を作成してしまうことも否定できない。生成AIの活用が急速に広がる中、これらのリスクや懸念の解消は同時並行で進めなければならない。

 5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)では、AI分野での国際的なルール作りの議論を始めることで合意した。担当関係閣僚で議論する「広島AIプロセス」を進め、G7としての見解を年内に示すとしている。EU欧州議会は包括的なAI規制案を採択し、規制の動きを強めている。

 国内では、政府の「AI戦略会議」で生成AIの利用によって懸念されるリスクをまとめた「論点整理」が示され、対応の必要性が指摘された。文部科学省は小中高校向けの指針を公表。「限定的な利用から始めるのが適切」と明記した。読書感想文での生成AIの利用を「不正行為」とする不適切事例も並べた。

 教育現場で懸念されるのは、安易な生成AIの活用による思考力や想像力の低下だ。文科省は全国の教育委員会などに指針を通知したが、実際の教育現場での活用法にはさらに議論が必要だろう。

 生成AIの普及は、われわれの想像以上の速さで進んでいる。効率化を優先するあまりリスクを軽視すれば、社会の価値観や「人間の幸福」をゆがめてしまう恐れがある。よりよい社会の実現に向け、国際社会が一致してルール作りに取り組むべきだ。

© 株式会社琉球新報社