「糖尿病患者の年間100人に1人が寛解」新潟大学が驚きの研究結果を発表!治りやすい人の傾向は?

インスリン注射の負担からも解放されるかもしれない(写真:PIXTA)

「いったんなったら治らない」「薬を一生飲み続ける」

糖尿病についてこんな認識を持っている人は多い。そんな“定説”をくつがえす研究報告があった。

「糖尿病は、膵臓から放出され、血糖値の上昇を抑えるホルモン『インスリン』が不足したり、効き目が低下することで高血糖が慢性的に続く病気。

なかでも日本人の糖尿病の95%を占めるのが、遺伝的要因や加齢、過食や運動不足といった負の生活習慣が重なることで発症する2型糖尿病(以下、糖尿病)です。

そんな糖尿病で、年間100人に1人は“治っている”ことが明らかになりました」

そう語るのは新潟大学大学院医歯学総合研究科の曽根博仁教授(血液・内分泌・代謝内科学)。

曽根教授や同大学の藤原和哉特任准教授らの研究チームは、糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)に登録されている、全国の糖尿病専門施設の患者4万8千320人のデータを分析。その結果、年間およそ1%、100人に1人の患者の血糖値が下がり、薬が必要でなくなる「寛解」に至っていたと発表した。

曽根教授が解説する。

「糖尿病患者が胃の全摘手術や胃の一部を摘出する肥満外科手術を受けることで“糖尿病の状態ではなくなる”ケースはありました。食事療法や運動で血糖値が正常値まで改善する方もいます。ただ糖尿病は再発することがあり、病気が根本から治る『治癒』という言葉を使っていませんでした」

糖尿病が“一生治らない”と思われている背景には、継続的な運動や食事療法が不可欠で、薬物治療をしてもコントロールが難しく、再発のリスクがあることが大きい。

「今回の調査は、ヘモグロビンA1cが糖尿病の指標である6.5%未満まで改善し、血糖値を下げる薬が必要なくなって3カ月以上継続している状態を『寛解』と国際的に定義されたことを受け、国内で初めて行われたものです」

■「太っている人ほど治りやすい」というデータも

では、どんな人が糖尿病の寛解に至っているのだろうか?

調査によると、年間の、1千人あたりの寛解発生数(寛解した人の数)で、もっとも高い数値を示したのが「1年間の体重の変化」だ。

「体重を1年間で10%落とした人の寛解発生数は、1千人あたり48.2人と非常に高くなっています。これは、たとえば糖尿病で体重80kgだった人が8kg減量することで、年間約4.8%の人が“治っている状態”になるということ。体重減少により寛解が起きやすくなることがわかりました。

ただし、日本人に多い“インスリンが不足する”タイプの糖尿病の場合、高齢の患者さんには痩せている人が多くいます。そのような方が無理して体重を落とすと、筋肉が減少するサルコペニアや要介護になりやすいフレイルの状態になってしまう恐れもあるので、専門医と相談が不可欠です」(曽根教授、以下同)

また、「罹患期間」が短かった人、「ヘモグロビンA1c値」が低かった人、「治療」では薬物治療を受けていなかった人の寛解発生数が高いことも判明した。

「早期に糖尿病と診断され、血糖値の平均値が低いうちに治療を始められれば、寛解しやすくなるということです。ただ糖尿病は自覚症状が少ないので、健康診断を毎年受け、疑いがあれば、すぐに専門医を受診することが大事。

《健康診断を何年も受けていない》《診断を受けたのに治療しない》《治療途中でやめる》などは、寛解しにくくなる原因を作ってしまっているといえます」

一方で肥満度を示す「BMI」は数値が大きかった人、つまり太っている人のほうが寛解に至るケースが多い。

「インスリンは血中の糖分をエネルギー源として取り込みますが、余った糖分は脂肪細胞にため込まれます。BMIが高い人は、インスリンの分泌能力は高くても、効き目が低下していて、糖分の取り込みがうまくいかず、脂肪が蓄積されているといえる。体重を減らせば、インスリンの効き目が回復して、血糖値が低下し、寛解に結びつくと考えられるのです」

“肥満体質だから糖尿病は治らない”と諦めるのは早い。太っている人ほど寛解するチャンスがあるとも考えられるのだ。

■糖尿病患者の5人に1人が治る!

「全体で100人に1人という寛解発生率は約4万8千人の平均の割合。早期発見して治療を始める、体重を減らすなどの条件が重なった人においては、最高で5人に1人ぐらいの割合で寛解が期待できることが、さらにデータを分析した結果、わかってきました」

“糖尿病患者の5人に1人が治る”と聞けば、運動や食事療法を頑張ろうと思えてくるのではないだろうか。そうして寛解を目指すことは、恐ろしい糖尿病の合併症を防ぐことにもつながる。

「代表的な合併症には、毛細血管の障害が原因となる網膜症や腎症、神経障害があり、失明、人工透析、足の壊疽につながります。突然死を招く心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める動脈硬化も発症しやすくなります。

これらの合併症を引き起こしてしまったら、今の医学でも治すのは困難。できるだけ早期に糖尿病を見つけ、合併症を予防するべく治療を続けるのが、現在の糖尿病医療のスタンダードなのです」

“糖尿病は治る”という驚くべき調査結果は、重い病気が見つかるのが怖くて健康診断を受けなかったり、治療を中断したことにより合併症になってしまう人を減らすことにもなるはずだ。

今回の研究では、寛解した3千677人の追跡調査も実施。1年間寛解を維持した人は1千187人にとどまり、血糖値が上昇して再発した人は2千490人いたという。

「そこが糖尿病治療の難しいところ。“気が緩む”ということもあるでしょう。また、どんな人でも加齢により、血糖値がゆるやかに上昇していくのも影響している可能性があります。

とはいえ、運動や食事といった生活習慣の改善により、一度でも“糖尿病ではない状態”に戻せたことは大きな自信となるはず。その経験をもとにまた頑張ることで、再び寛解する可能性も高くなるでしょう」

治らない病気ではないことがわかったとはいえ、糖尿病に“かかっても大丈夫”という意味では決してない。あくまでも“治せる病気”として、健康診断での“発覚”を恐れず、すでに闘病中の人には“希望”をもって、糖尿病に立ち向かってほしい。

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