「さらし」「私刑」“正義感”で投稿も損害賠償リスク…SNS利用“身近な”落とし穴

遠藤研一郎『僕らが生きているよのなかのしくみは「法」でわかる 13歳からの法学入門』より(漫画:石山さやか)

SNSの投稿が原因で、投稿した人や、投稿で話題にされた人の日常生活に支障が出てしまう、いわゆる“炎上”事件が後を絶ちません。

子どもがSNSを使って友だちや先生の“うわさ”や“悪口”を流したら…。親が子どもに伝えるべき“SNSと法律”に関する基礎知識を、中央大学法学部の遠藤研一郎教授(民事法学)が解説します。

※この記事は、遠藤研一郎教授の著作『僕らが生きているよのなかのしくみは「法」でわかる』(大和書房)より一部抜粋・再構成しています(漫画:石山さやか)。

【#1】「いじめられる側にも落ち度」は“絶対にない”…いじめ被害者が頼るべき「法の力」とは

自由に表現するということ

いま、みなさんのまわりには、だれかに自分を知ってもらうツールがたくさんありますよね。その中心になるのがSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)。13歳になると自分でアカウントを持てるSNSが増えます。マンガのカナタくんも、インスタ(Instagram)への投稿に夢中のようです。

まず、みなさんには、憲法上で、基本的人権のひとつとして「表現の自由」が保障されています。つまり、みんな自由に表現活動をすることが認められていて、国家権力(国や地方公共団体)は表現の自由を侵害してはならないのです。

この表現の自由は、基本的人権のなかでもすごく重要な権利です。なぜでしょうか?

まずは、いろんな表現活動を通じて、自分自身を成長させることができます。好きな服を着て、好きな髪型をして、好きな歌を歌い、いろんな人と話して、ときにはちがう意見とぶつかって、自分を振り返って、コミュニケーションをたくさんして、そのなかで毎日成長するのです。何歳になっても、人として成長することができます。これを「自己実現」といいます。表現の自由は、自己実現のためにとても大切なものです。

それだけではありません。みなさんは、みなさんの社会がどのようなものであったらいいか、いろいろな場所でいろいろな人と自由に話し合うことができます。ときには、国を動かしている政治を批判することだってできます。自分の意見を発信し、また、適切な情報を手に入れ、選挙を通じて、「政治的な意思決定」に参加することができます。これを「自己統治」といいます。自己統治が認められることは、いま暮らしている「民主主義」の国にとって生命線となります。日本だけではなく、自由な国には、表現の自由が認められています。

ですから、みなさんにもその友だちにも、表現の自由はあります。身のまわりで起こった発見、自分の趣味、知ってもらいたいなぁということを自由に発信することができますし、同じように、友だちの情報も自由に受け取ることができます。それを国家が監視し、国家の都合で勝手に規制をするなんてことにはなりません。

名誉ってエラい人のもの?

情報を発信したり、受け取ったりするために、インスタをはじめとするSNSはとっても便利ですよね。でも、使い方には気をつけなければいけません。いくら表現の自由があるからといって、他人を傷つけてはいけないのです。他人を傷つけるって、いったいどういうことでしょうか?

まず、みなさんはだれでも、「名誉」というものを持っています。名誉というと、エラい人だけが持っているような感じがしますが、そうではありません。だれでも持っています。名誉というのは、その人が社会から受けている評価のことです。シバタ先生やコイズミ先生にも、名誉があります。

そして、カナタくんがインスタに無責任な記事と写真をアップしたことで、シバタ先生やコイズミ先生が、精神的に傷ついただけではなくて、シバタ先生やコイズミ先生を見る社会の目が、とても批判的になってしまいました。「あの人は、先生にふさわしくない!」と思う人が増えるのです。そのように、社会的評価が損なわれてしまうことを、「名誉毀損(きそん)」といいます。同級生の悪口をいうのだって同じです。匿名を利用して、あることないこと、おもしろおかしく書き込むネットでのいじめも、場合によっては名誉毀損になりうるのです。

「名誉毀損罪」は、まぎれもない犯罪行為です。それに加えて、名誉を毀損した人は名誉を毀損された人に対して、「損害賠償(被害者にお金を支払うこと)」をしなければなりません。

「プライバシー」と「肖像」

SNSを使うときには、名誉とはべつにもうひとつ、他人の「プライバシー」にも配慮しなければなりません。よく耳にするこの言葉、プライバシーってなんでしょう?

プライバシーとは、簡単にいえば、その人が他人に秘密にしておきたい事柄のことです。名誉のように、社会的評価が下がるかどうかは、関係ありません。だれでも、他人にいいたくない、知られたくないことってありますよね。それが勝手に公開・公表されて、公開・公表された人が不快・不安を感じたら、「プライバシーの侵害」となります。

たとえば、居酒屋でアルバイトをしていた店員が、「アイドルグループの〇〇ちゃんが、来店なう。唐揚げ食いながら、めっちゃ酒飲んでる……(´∀`)」なんて投稿したら、どうですか?

アイドルだって、プライベートがあります。いまどこにいるかとか、何を食べているかなんて、他人に知られたくないかもしれません。ましてや、大食い、大酒飲みなんて書かれ方……。今回のマンガの事件だって、もしかしたら、コイズミ先生、懇親会をしていたことを人に知られたくなかったかもしれません。

それから、もうひとつ。みなさんは、それぞれ「肖像権」というのを持っています。肖像権とは、簡単にいえば、勝手に撮影されたり、それを公開されたりしない権利です。同じ学校の生徒といえども、先生のことを勝手に撮影してそれを勝手に公開してはいけません。

友だち同士だって、注意しなければ、トラブルになるでしょ? カナタくんが、友だちとグループで遊びに行ったときに撮った写真を、勝手にSNSにアップしたらどうでしょう。勝手にタグ付けをしたら? それを見たべつの学校の人が、カナタくんに、「この子、かわいいね(かっこいいね)! この子の住所教えて!」と頼んできたので、カナタくんが勝手に友だちの住所を教えてしまったら?……。

いまは、機械の技術が発展しているから、情報のやりとりがとても便利な時代だけれど、それだけすぐに拡散してしまいます。そして、一度拡散したら、その情報を完全に消すことはほとんど不可能で、コントロールできないところで、インターネットのなかをさまよい続けます。SNSに他人のことを書くということは、プライバシーの観点からも、肖像権の観点からも、十分な配慮が必要なんです。

さて、もうわかりますね。カナタくんの軽はずみな行為は、他人の名誉やプライバシーや肖像権を侵すおそれのある行為です。

「さらし投稿」は認められる?

さて、ここで応用編。ひとつ質問です。

Q. カナタくんが下校時に電車に乗っていたら、前の席に座っていた男性が、隣に座って寝込んでいた女性の体を触っているように見えた。そこで、正面からその現場をスマホで撮影して、帰ってからすぐに、「このエロオヤジ、痴漢してました」という記事をアップ。みなさんは、カナタくんの行為を正しいと思う?

いわゆる「さらし投稿」ですね。「犯罪をしているやつを許せない」「犯罪に巻き込まれている人がいれば助けたい」という正義感って、もちろん、とても大切です。

ただ、気をつけなければならないこともあります。まず、犯罪をしていたのは、本当に間違いありませんか? もし、カナタくんの見間違いで、じつはその人は犯罪をしているわけではなかった(=冤罪だった)らどうしますか? カナタくんは、責任をとることができません。また、そもそもカナタくんは、犯罪者を処罰する権力を持っているわけではないんです。「私刑」は、日本では認められていません。

つまり、他人のことをネットにアップすることには、すごく慎重になるべきなんです。もし、犯罪行為に出会ってしまったら、犯罪を捜査することが認められた存在である「警察」に任せることを第一に考えてください。

そうそう、最後にあともうひとつだけ。政治家のスキャンダルが、週刊誌に載ることがありますよね。「国会議員〇〇、不倫疑惑。手つなぎデート!」みたいな。あれは、名誉毀損とかプライバシー侵害にならないのでしょうか?

もちろん、度が過ぎれば、責任が問われる場合もあります。でも、政治家が起こしたスキャンダルは、その人が私たちの代表(政治家)としてふさわしいかを判断し、選挙のときにその人を選ぶかどうかに、大きく関係します。つまり、「社会みんなの利害に関係すること」です。そこには、「知る権利」があります。ですから、そのぶんだけ、表現の自由が強く保障されることになります。つまり、カナタくんがインスタでシバタ先生やコイズミ先生をネタにするのとは、少し意味がちがってくるのです。

■書籍情報
『僕らが生きているよのなかのしくみは「法」でわかる 13歳からの法学入門』
著者:遠藤 研一郎
出版社:大和書房
発行年月:2019年6月

「いじめって犯罪なの?」
「ネットにバイト中の悪ふざけをアップしたらどうなるの?」
「“表現の自由"があるんだからSNSにどんな悪口を書いたってOK?」
知らずしらずのうちに接している「法」を知れば、世の中がわかる!
中央大学法学部教授による、前代未聞のいちばんやさしい「法入門」。
ストーリーマンガ入りですらすら読める。10代から大人まで全員必読!

© 弁護士JP株式会社