5年で売り上げを2倍に「サーチファンド」で鹿島精機工業の社長になった中島祐氏に聞いた

鹿島精機工業の中島祐社長

エアコンに使う金属部品「バルブプレート」のメーカーである鹿島精機工業(神戸市)の社長に、中島祐氏が2023年6月に就任した。

中島氏は5年ほどサーチャー(事業承継先を探している個人)として活動したあと、サーチファンド(個人が投資家からの資金援助を受けM&Aによって経営者になる仕組み)を運用するGrowthix Investment(グロウシックス・インベストメント、東京都中央区)や大手外資系投資銀行などから資金を調達し、念願の企業経営に携わることになった。

中島社長に今後の成長戦略やサーチファンドに対する考えをお聞きした。

5年間で売上倍増の仕組みを構築

-まず、御社のメイン製品であるバルブプレートとは何なのかをお教え下さい。

バルブプレートはルームエアコンやカーエアコンの空気の流れをコントロールする部品で、コンプレッサーの中に組み込まれており、硬くて柔軟性が求められます。特殊鋼をプレスで型抜きした後、表面を研磨して造ります。

排水設備を含めて結構設備投資が大きくなりますので、なかなか参入しづらい分野です。正式なレポートなどで出されてる数字ではありませんが、先代によると弊社の世界シェアは30%ほどだと考えています。

-そのような企業の社長になりたいと考えたのはなぜですか。

もともと企業の経営者になりたいと考え、5年くらい前からいろんな企業を調べていました。私はオムロンやミスミなどのメーカーで仕事をしてきており、こうした経験を活かせればと思っていました。

そうした中、グロウシックスさんに声をかけていただき、この会社と出会うことができました。今後の成長を考えると、売上高の半分以上を占める中国でしっかりとやることが大事で、私が現地の方と中国語でコミュニケーションが取れることを前社長に評価していただいたようです。

私自身もこの会社に魅力を感じました。前社長のおじい様が元々設立された会社で、お父様が引き継がれて、前社長が3代目でいらっしゃいました。

この60年間で品質の良さと耐久性が評価され、実績を積み上げてこられています。これがこの会社の強みであり、一番の魅力だと思っいてます。


事業承継や経営者育成のスタンダードに

-経営権を取得するためファンドなどから資金調達されています。どのような出口戦略をお持ちですか。

これと言って何かを決めてるわけではありません。従業員の方々が今回のこの承継自体を受け入れてくださることが、この会社の価値を上げていく上では最重要課題ですので、従業員の方からの信頼を獲得することにフォーカスしていきたいと考えています。

この会社は成長の可能性があると思っています。本当に素晴らしい技術がありますので、まずは企業を成長させる事に力を注ぎます。私が社長になって、成長できるという希望を持っていただくことが、すごく重要だと思っています。

-具体的な成長戦略をお教え下さい。

100日プランということで、まず会社の中の体制を整えることに注力していまして、それを超えたら5年後に売上高を2倍にするという目標のもとに、新規顧客の開拓と海外事業の拡大、販売チャネルの拡大に取り組みたいと思っています。

具体的には2022年5月期に14億円だった売上高を2027年5月期に2倍の30億円に高める計画です。ルームエアコンやカーエアコンのマーケットはどんどん拡大していくと予想されています。特に海外の伸びが大きく、中国やインド、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンなどにどんどんマーケットが広がっています。こうした国々で新規顧客の開拓に取り組みます。

もう一つは新しい販売チャネルの構築です。これまでは直販が中心でしたが、代理店を使ったり、eコマースなども取り入れていきたいと考えています。

-今回サーチファンドを活用することで、企業経営にかかわることになったわけですが、こうした仕組みについてどのようなお考えをお持ちですか。

面白い仕組みだと思います。サーチファンドという仕組みがあれば、事業承継がスムーズにいくということと、経営者育成という観点でも成果が見込めます。社会的にも意味のある取り組みだと思います。

日本では今までは、なかなか企業の経営者になることは難しかったのですが、サーチファンドの仕組みを使えば、経営をさせていただけるチャンスがでてきます。やりようによっては、日本での事業承継だとか、経営者育成のスタンダードになるかもしれないと思います。

【Growthix Investment竹内智洋社長談】
私たちも経営者として中島新社長とともに、鹿島精機工業の中に入ってやっています。投資してから理解できることも多々ありますので、一つひとつ向き合って、何が一番この会社を大きくする上で必要なのかを、中島社長とともに考え実行していきます。

その中で特に従業員の皆様に信頼していただくことが重要だと考えており、一日でも早く従業員の方々に新経営陣に対する信頼を築いて、一緒にがんばれるチームを作っていければと考えています。(関連記事はこちら

中島祐社長

【中島祐氏】
1993年、オムロン入社 (オムロン台湾 CFO、オムロン中国本社経営企画課長)
2007年、リヴァンプ (ディレクター)入社
2008年、ミスミグループ本社(ミスミ台湾総経理)入社
2012年、産業革新機構(ユニキャリア中国事業部長)入社
2015年、ニトリホールディングス(ニトリ中国 組織開発室長)入社
2017年、リフォームステーション(専務取締役営業本部長)入社
2018年、ファミリーマート(オフィサー・ 新規事業開発部長)入社
2023年、鹿島精機工業代表取締役社長に就任
1993年、慶應義塾大学商学部卒業
2006年、国立台湾大学管理学院国際企業学修士卒業

文:M&A Online

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