思い出の浴場懐かしむ 映画「ゆ」、ロケ地の草津鉱泉(富山市)で上映 

上映前に、地元住民らにあいさつする水野久子さん(左)と平井監督(左から2人目)=草津鉱泉

 富山市出身の平井敦士監督が手がけ、今年5月のカンヌ国際映画祭「監督週間」で披露された短編映画「ゆ」の上映会が17日、ロケ地となった同市田刈屋の草津鉱泉で開かれた。同鉱泉は現在営業しておらず、廃業が決まっている。常連客ら約50人が、それぞれの思い出を重ね合わせながら作品を楽しんだ。

 「ゆ」は大みそかの夜、地域の人々が銭湯でひとときを過ごす、日常の姿を描いた21分間の作品。今年2月に富山市や魚津市で撮影し、主役以外は県民がキャストとして出演している。

 ロケ地の一つとなった草津鉱泉は戦後間もなく創業し、地域住民らの憩いの場として70年以上親しまれてきた。3代目の水野和夫さんが体調を崩したため2021年末から休業。その後水野さんが亡くなり営業再開が難しくなったことから廃業し、近く取り壊す。

 平井監督は「自分も銭湯が好きで、長い間地域の人に親しまれてきた歴史に敬意を表すとともに、映像に残したいと思った」と、22年2月以降繰り返し依頼に訪れた。水野さんの妻で番台を任されていた久子さん(70)は「映画の撮影地になるなんて思ってもいなかった」と言うが、家族も前向きだったこともあり応じたという。

 上映会では、浴場にスクリーンを設置し、来場者は風呂いすに腰かけて鑑賞。湯煙に包まれたような気分に浸りながら作品を楽しんだ。映画に出演した常連客の男性は「短編だが、長編と変わらないような内容の濃さ。こんなにいい映画になるとは」と喜んだ。久子さんは「営業していた頃の雰囲気が出ていた。草津鉱泉が映像として残っていくことがうれしい」と話した。

 「ゆ」は7月29日~8月11日、富山市総曲輪のミニシアター「ほとり座」で一般公開する。

© 株式会社北日本新聞社