急激な温度変化に要注意…“梅雨明け1カ月間”に心疾患リスクが激増

気温が35度になると、心疾患リスクは30度のときに比べ4倍に増加していたという(写真:アフロ)

今年も暑さの厳しい夏となりそうだ。気象庁の1か月予報(7月8日~8月7日)では《暖かい空気に覆われやすいため、気温は全国的に高い》《特に、期間の前半は気温がかなり高くなる見込み》とされている。

気温が上昇すると気になるのが健康におよぼす影響だろう。高温多湿となることで脱水症状に陥ったり、体内にこもった熱が放出されずに熱中症になるなどの危険性が増す。警戒すべき健康トラブルはほかにも――。

「梅雨明けから1カ月の期間は、心筋梗塞や脳卒中など、命に関わる重篤な血管疾患のリスクも高まるので、十分な注意が必要です」

そう警鐘を鳴らすのは、岡山大学大学院(津山中央病院循環器内科医長)の藤本竜平先生。

藤本先生の研究グループは、’12~’19年の梅雨入りから梅雨明け3カ月後にかけて心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、心不全など)で救急搬送された65歳以上の高齢者6千527人を対象に、気温上昇と心血管救急搬送リスクの関係を調査し、今年3月に論文にまとめた。調査の結果、梅雨明け1カ月後に、心血管疾患の急患が最も多かった。さらに、気温30度以上の日には、気温が上昇するにつれて心血管疾患のリスクが上がることもわかった。気温が35度になると、30度のときに比べ、リスクがじつに4倍ほどに増加していたのだ。

心臓の疾患は日本人の死因で「がん」に次ぐ第2位。突然死を招くこともある恐ろしい病気だ。

「冬の寒い時季、急激な温度差で血圧が大きく変動する『ヒートショック』などが引き起こす心筋梗塞や脳卒中はよく知られていますが、私たち臨床現場の肌感覚では、梅雨明けの暑い時季にもこうした血管の病気の患者さんが搬送されていることを感じていました。そこで梅雨の時季に注目して心血管疾患の患者さんのデータを解析したところ、梅雨明け後1カ月において気温の上昇と心血管疾患リスクに関連が見られたのです」(藤本先生、以下同)

梅雨明けの時季は、急激な温度変化に体がついていけないために血管の疾患が起きやすいのでは、と藤本先生は推測する。

「特に高齢の方は、気温の激しい変化に注意が必要です。梅雨明け1カ月間は、水分摂取をこまめに行い、できるだけ涼しい室内で過ごせるよう、環境を整えることが予防につながります」

梅雨明けのころは、ジメジメした日が続いた後に晴れ間が訪れると、つい解放感から外出したくなるという面もある。

「そうした行動特性も、この時季の心筋梗塞や脳卒中を招く一因かもしれません」 さらに、今回の研究で注目すべき結果があると藤本先生は話す。それは、体が高温にさらされてから血管の疾患を発症するまでの経過時間に関すること。大きな山は2つあり、「暑さにさらされてから1時間後」(33%)と「暑さにさらされてから23時間後」(40%)に見られたという。

「この結果は私たちにとっても新たな発見でした。外出直後に体が変調をきたすのは、急に気温の高いところにさらされた体が十分に適応できないことが原因かもしれません。発汗による脱水や、血液の濃縮による血栓ができたり、もともと動脈硬化があった人はプラークが破綻して心臓や脳の血管が詰まってしまうのです。いっぽう、23時間後の発症は外出の翌日に起こるわけですが、高齢者は、若い人に比べて気温の影響が体にこもりやすい傾向があります。脱水状態にあるのに、それに対する体の反応が遅く、時間差で不調が現れてしまう可能性があるのです」

気温が30度を上回ると、これらのリスクが右肩上がりに高まるが、7月16日には群馬県桐生市で今年の国内最高となる39.7度を記録するなど、すでに私たちは命を脅かす暑さに直面しているともいえる。

「30度が1つのボーダーライン。外出するのであれば、できるだけ午前中の早い時間帯か、気温が下がった夕方以降をおすすめします」

命を守るためにも、けっして油断は禁物だ。

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