「耕したほうが浸透力が上がる」水害から街を守れ!大雨をため込む「雨庭」の威力【わたしの防災】

記録的な雨による河川の増水や道路の冠水、浸水被害が多発しています。こうした水害を防ぐことを目指し、屋根などに降った雨をすぐ下水や川に流さず、地下にゆっくりと浸透させる「雨庭」の試験導入が静岡県三島市で始まっています。

<金原一隆記者>

「工場の横に掘られている穴。これが地域の水害や河川の氾濫を防ぐことにつながるのかもしれません」

三島市長伏にある工場の一角。三島商工会議所のメンバーがスコップなどで四角く掘り進めているもの、これは「雨庭」といいます。

<三島商工会議所 森崎祐治委員長>

「雨庭というものを作って、雨水を地下にうまく浸透させることによって、通常の下水や河川に直接水量が増すことがないように、緩やかに水を処理していく」

雨庭は、雨水を地面にしみ込ませる窪地のことで、下水に流す雨水の量を減らす技術です。三島商工会議所は、熊本県の研究者に指導を仰ぎました。

<熊本県立大学 島谷幸宏特別教授(河川工学・流域治水)>

「昔に比べて地面が道路、アスファルトで覆われたり、都市部では住宅に覆われたりして、水が土の中にしみ込まなくなっている。いろいろと水がたまる場所がなくなっていて、排水路も整備されたものですから、一気に水が流れてきて、洪水が起きやすくなっている」

都市化が進む多くの街で、降った雨の水は、雨どいや道路の側溝などを通り、地下の下水管に集められます。記録的な大雨が頻発する近年、市街地などの排水能力を超える大量の雨が降ると水が街にあふれたり、川が氾濫したりすることもあります。

<熊本県立大学 島谷幸宏特別教授(河川工学・流域治水)>

「気候変動で雨の量が増えてくるということで、1回作った下水道の仕組みとか全部替えるのは大変なので、いろいろな場所で水をためたり、浸透させたりすることによって洪水を防ごうと雨庭が誕生した」

三島商工会議所のメンバーが掘っている雨庭の大きさは、長さ3.6メートル、幅1.5メートル、深さは40センチ。工場の屋根のうち、雨どい1本分の雨水を雨庭の下の地中に導き、最大1トン貯める計画です。

<三島商工会議所 塩谷洋司主任>

Q.畑みたいに耕しますね?

「耕したほうが水の浸透力が上がるので、水がたまりやすく、浸透しやすくなる。数字のデータで出ているので、土を柔らかくして浸透力を高めている」

アスファルトで舗装された道や屋根はまったく水を通しませんが、農地や森林は、1時間に200ミリ以上の水を地中に通すそうです。

掘った穴の底に、土をふかふかにする腐葉土を敷き、水はけをよくする石を混ぜこみました。周りを三島市内に豊富にある溶岩で囲い、緑や赤などの彩りを加える植物も植えました。工場の屋根に降った水を導く雨どいを接続し、雨庭の完成です。

<三島商工会議所 森崎祐治委員長>

「1時間に60ミリくらいの相当強い雨が降った場合でも、200分(3時間20分)雨をため込むことができる。相当強い雨でもあふれることはないと想定している」

今回は三島市内の工場1か所で、試験導入を始めたばかりです。

<三島商工会議所 小野徹副会頭>

「雨庭のようなものを使っていっぺんに洪水にならないよう工夫をしていく。それを個人だけではやりきれない。商工会議所のネットワークの中で訴えていく、こうした動きが駿豆地区に広がっていけばと思う」

狩野川などが流れる静岡県東部の流域の市や町で、この取り組みが広がっていけば、都市の水害を抑える効果がでてくることになりそうです。

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