融合しつつある銀河団と重力レンズ効果 ハッブル宇宙望遠鏡が捉える

こちらに写っているのは「りょうけん座」の一角。画像の横方向の範囲は満月の視直径の12分の1程度に相当します(視野は2.37×2.10分角)。

視野全体を占める天体の多くは銀河で、画像の中央には約80億光年先の銀河団「eMACS J1353.7+4329」が写っています。欧州宇宙機関(ESA)によると、私たちは少なくとも2つの銀河団が合体して単一の巨大な銀河団になりつつある様子を観測しているようです。

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された銀河団「eMACS J1353.7+4329」(Credit: ESA/Hubble & NASA, H. Ebeling)】

銀河団とは、数百~数千の銀河からなる巨大な天体のこと。何百億~何千億もの星々の集まりである銀河が何百~何千と集まった銀河団、その途方もない質量は「重力レンズ効果」をもたらすことがあります。

重力レンズとは、手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球からは像が歪んだり拡大して見えたりする現象です。画像の中央右側をよく見ると、eMACS J1353.7+4329の質量によって像が弧状に歪められた銀河が写っていることがわかります。重力レンズは遠方の天体を観測するための“天然の望遠鏡”として利用できますし、その強さを分析することで、未知の暗黒物質(ダークマター)の銀河団における分布を知ることも可能です。

この画像は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」と「広視野カメラ3(WFC3)」で取得したデータ(可視光線と赤外線のフィルター合計7種類を使用)をもとに作成されました。ESAによると、ハッブル宇宙望遠鏡によるeMACS J1353.7+4329の観測は、普通とは違う5つの銀河団を複数の波長で観測することを目的としたHarald Ebelingさん(ハワイ大学)たちの観測提案「Monsters in the Making」の一環として実施されたということです。

冒頭の画像はハッブル宇宙望遠鏡の今週の画像として、ESAから2023年7月10日付で公開されています。

※記事中の距離は天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています。

Source

  • Image Credit: ESA/Hubble & NASA, H. Ebeling
  • ESA/Hubble \- Galactic monster mash

文/sorae編集部

© 株式会社sorae