復帰70年、カヌーで鹿児島縦断へ 「結人プロジェクト」新たな挑戦、密航陳情団の軌跡たどる

奄美群島(鹿児島県)の日本復帰運動に懸けた先人の思いと助け合いの精神を次世代へ伝えようと、白畑瞬さん(38)=奄美市名瀬=が2013年に立ち上げた「結人(ゆいんちゅ)プロジェクト」の新たな挑戦が始まる。十島村宝島から鹿児島市まで、約300キロの海路を人力のアウトリガーカヌーで縦断。島の人々の願いを背負い命懸けで上京、日本復帰を直訴した「密航陳情団」の軌跡をたどり、その意志を各地へ届ける試みだ。

鹿児島縦断約300キロの挑戦に向け、早朝練習を重ねるプロジェクトメンバーたち=6月29日、奄美市名瀬

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プロジェクトのキャプテン白畑さんは奄美市名瀬出身。高校卒業後カヌーガイドを始め、国内外の大会で活躍。現在はアマニコカヌークラブ(奄美市名瀬)代表として古里の魅力を発信している。

「結人プロジェクト」は米軍統治下の島の人々の思いを学び伝えようと、奄美群島日本復帰60年の2013年に結成。白畑さんは沖縄本島から奄美群島へのカヌー単独航海を行い、復帰運動の当事者との対話を重ねながら、各地の協力者とのつながりも深めてきた。

結成から10年。白畑さんの思いに導かれ志を同じくする仲間も増えた一方、復帰運動伝承の難しさも感じてきたという。復帰70年を節目に、次世代への伝承と復帰運動の記憶の風化に立ち向かおうと、新たな挑戦を決めた。

プロジェクトメンバーは昨年夏、人力カヌーで奄美大島―宝島間の約100キロの航海を達成。続く今年は宝島から悪石島―諏訪之瀬島―口之島―口永良部島―竹島―指宿市を経て鹿児島市へ計7日間、300キロ超の海路縦断を目指す。

使用するのは船体の左側に「アマ」と呼ばれる浮力体を持つ6人乗りのアウトリガーカヌー。十島村の小型高速船も並走し、安全管理やこぎ手交代などサポートを担う。こぎ手は20~60代の男女約20人で、喜界島や徳之島、十島村在住者も参加する。

出発に向け練習を重ねる中、メンバーは体力作りも兼ね、7月2日に瀬戸内町で開催された奄美シーカヤックマラソンに出場。白畑さんはフルマラソン部門で見事優勝し、副キャプテンの古株聖也さん(28)も同3位に入賞。鹿児島縦断達成への弾みをつけた。14日には「泉芳朗先生を偲(しの)ぶ会」の楠田哲久会長(76)らを講師に招き、復帰を学ぶ勉強会も開催した。

白畑さんは「人の力でこいで渡ることで、先人たちが成し遂げた功績や覚悟、精神的な強さを伝えられたら。仲間と波長を合わせ、安全に航海することが第一。全員がけがなく無事に終われるよう、出発までに体力面はもちろん、チーム力を高めていきたい」と意気込みを語った。

古株さんは「陳情団が感じていたこと、彼らが見てきた景色を、10年間で絆を深めたメンバーと追体験できる。楽しみです」と笑顔で話した。

一行は7月20日に奄美大島から宝島へ船で移動。翌日カヌーで宝島を出発し、ゴールの鹿児島市の磯海水浴場28日着を目指す。

同プロジェクトでは、インスタグラムで練習風景やメンバーを紹介。活動への協力を呼び掛けている。

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