人間ドックや全国健康保険協会(協会けんぽ)の生活習慣病予防健診で受ける胃カメラ検査。胃がんの早期発見などにつながる重要な検査だというのは理解しているが、口から入れると「オエッ」となるあの感覚がどうも苦手だ。ただ、最近では鼻から入れて苦痛を少なくする「経鼻」で受けられる医療機関が増えてきた。鼻から入れるのもかなり違和感があるが、本当につらくないのだろうか? 福井赤十字病院(福井県福井市)の協力で体験させてもらうことになった。結果やいかに―。
昨年初めて胃カメラ検査を受けたが、そのときは口からの「経口」で、苦痛だった記憶しかない。自分から体験取材を依頼したものの不安でいっぱい。なんだか胃が痛くなってきた。
問診を終え、検査の順番が回ってきた。カメラを左右どちらの穴に入れるかは、鼻のつまりやすさなどを考えて自分でも選択できる。記者は特に理由もなく右を選んだ。前処置室では、直径約5ミリのカメラが通るかチェック。鼻血を出にくくする局所血管収縮剤を鼻内にスプレーされ、最後に局所麻酔のゼリーを注入された。
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いよいよ開始。検査を担当してくれたのは副院長で消化器センター長の山崎幸直医師。「経験豊富だから安心ですよ」と看護師さん。少し気が楽になった。
カメラが入ってきた。鼻の中に違和感はあるものの痛みはない。山崎医師がぽつりとつぶやく。
「狭い、狭いなあ…」「うーん、入りづらいな」
検査前、カメラが入らない鼻の大きさや形状の人もいると伝えられていた。もしかして自分もその一人なのか…。焦っていると、山崎医師の巧みな操作で「何とか通りました」。この体験取材がお蔵入りにならず、ホッとした。
そしてすぐに「食道に入りました」。オエッとなることはなかった。カメラが食道、胃、十二指腸へと進んでいく。途中、「『あいうえお』としゃべってみてください」と山崎医師。「あいうえお」。問題なく発声できた。痛かった時や異常があった時に意思表示できるから安心だ。
モニターに映し出された食道や胃の中の映像を見る余裕も。泣きながら、よだれだらだらだった経口の時とは大違い。カメラを体内に入れていたのは約10分間。その間、一度もえずくことはなかった。
検証結果は「鼻からだとつらくなかった」(あくまで個人の感想です)。
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検査後、鼻水に少し鼻血が混ざり、しばらく鼻水が出続けることが気になったが、それ以上に苦痛が少ないメリットの方が大きいと感じた。もし鼻からカメラが入らなかった場合は、口からに変更となり、経鼻用のカメラを入れる。
福井赤十字病院の健診での胃カメラは、経鼻と経口で料金は変わらない。昨年度、胃カメラ検査を経口で受けたのが746人なのに対し、経鼻は4002人。圧倒的に支持されているのもうなずける。
協会けんぽ福井支部によると、県内で生活習慣病予防健診を受けられる30医療機関のうち、21機関が経鼻での胃カメラ検査を行っている。
経鼻と経口、検査精度に違いなく
健診での胃カメラについて、福井赤十字病院健診部長の吉田誠医師に解説してもらった。
―胃カメラ検査とは。
正式名称は「上部消化管内視鏡検査」。食道、胃、十二指腸を観察し、悪性腫瘍や潰瘍などがないかチェックする。
―経鼻だと苦痛が小さかった。
「オエッ」となるのは、口から入れたカメラが舌の付け根に触れて異物を追い出そうとする嘔吐反射が起こるから。鼻からだと、舌の付け根に触れないため嘔吐反射が起こらない。カメラの太さは経口用の半分の約5ミリ。経鼻の合併症として鼻血が出ることがある。
―経鼻と経口での検査精度の違いは。
以前は、経鼻用のカメラは画質も悪く、組織を採取する生検もできなかった。現在は、高画質で生検も可能。精度に違いはない。経鼻では、鼻の疾患が見つかることもある。
―経鼻に不向きな人は。
鼻の大きさや形状によってカメラが物理的に入らない人は経鼻ではできない。花粉症の人は、鼻の中が腫れていてカメラが通りにくくなるので、花粉シーズンを避けて受けるといい。
―苦痛を理由に健診で胃カメラを拒む人もいる。
苦痛が嫌で拒否しているならば一度、経鼻で受けてほしい。小さい苦痛で最大限の効果を得られる。