焼津漁港(静岡県焼津市)の冷凍カツオ窃盗事件のその後を、島田支局の篠原大和記者が追いました。
<篠原大和記者>
2021年に発覚した焼津漁港の冷凍カツオ窃盗事件では、漁協の職員や水産加工会社などが摘発され、焼津漁港のブランドは大きく傷つきました。不正をなくし失われた信頼を取り戻すため、焼津漁協は若手も参加し市場の「デジタル化」を進めています。
創業明治10年、地元・焼津のカツオを取り扱う、こちらのなまり節専門店は7月17日から、カツオの「わら焼き体験」を始めました。
<川直 6代目 山口高宏さん(32)>
「カツオの窃盗事件があってから焼津とカツオの悪いイメージが先行している。少しでも良くしていこうと始めました」
老舗なまり節店の若き6代目が懸念するのは、窃盗事件で傷ついた焼津漁港のブランドイメージです。
焼津漁港では長年、大量の冷凍カツオが本来通らなければならない計量所を通らずに運び出されていました。一部の漁協職員と水産加工会社、運送会社が「小遣い稼ぎ」などを目的に共謀したとされ、算出された被害額は7年間だけで最大25億円。20人以上の漁協職員が「不正行為に関与した」と証言しています。
焼津漁港のレーンを流れる色とりどりの魚たち。これは水揚げされた魚をAIが選別するシステムを検証している映像です。長年、犯罪の現場となった焼津漁港を根本的に変えるため、いま市場の「デジタル化」が急がれています。
<イシダテック 事業推進室 中原正寛さん>
「コンベアーの上にカメラを設置して、撮影した魚をカツオであるかないか、重量を判別するシステムを検証している。いま1つのラインに25人ほど(作業員が)かかっているが、構想では5人ほどにできればと考えている」
焼津市の製造機械メーカー、イシダテックが開発を進めるシステムは、選別作業の負担を減らすことに期待が持たれています。
<イシダテック 事業推進室 中原正寛さん>
「AIなどの技術で焼津漁協が持続可能な漁協になればと思っています」
カツオの窃盗事件ではアナログな手法で計量の結果をごまかしていて、担当する職員が限られ、閉鎖的な現場だったことが不正のはびこった原因とみられています。
<焼津漁協 小梁金男常務理事>
「こちらの計量機は、量ったデータをペーパーに打ち込む形になっていて、デジタル化されて(情報が)とぶような形にはなっていない。デジタル化、ネットワーク化して、ここで量った重量をすぐに誰かが確認できる状態を目指している」
漁協では計量データなどをデジタル管理して、「情報の見える化」を進めています。
<焼津漁協 小梁金男常務理事>
「事件以降、焼津漁協は変わらなきゃならないんです。信頼される漁港になるためにデジタル化は大変有効なツールだと考えている」
<会議中の焼津漁協職員>
「デジタル化だけでなく働くことへの意識改革につながれば、いろんな意味で組織としてプラスになる」
この日、漁協の会議室に集まったのは30代から40代を中心とした職員たち。事件を受けて2022年4月に発足した「焼津魚市場改善改革チーム」です。危機感を持った若手を中心にデジタル化についてさらなる議論を進めています。
<焼津漁協 業務第一課 増田賢吾課長>
「若手中心にいろんな意見を出し合って、少しずつ少しずつ変えて、いいものを入れられればと思います」
<焼津漁協 業務第四課 橋本 健課長>
「いま変わる時だと思っています。考え方を根本的に変えて、少しでも信頼回復につながるならば、1日でも早くデジタルが進んでいけばと思っています」
市場を、漁協を変えたい。デジタルを武器に悪しき慣習を断ち切り信頼を回復できるのか。焼津漁協はまさにいまが正念場です。
東北地方の魚市場ではデジタル化が進んでいて、公正な市場の運営につながっています。古い体質の市場を一新させると期待されているデジタル化ですが課題もあります。計画は数年がかりで、初期投資にお金がかかること、年配の職員は順応に時間がかかると懸念されています。ただ、改革に痛みはつきもの。焼津漁協は23年度中をめどに、全体のデジタル化計画を策定したいとしています。