【角田裕毅を海外F1ライターが斬る】キャリア最大の試練が始まる。リカルド加入で予想される3つのシナリオ

 F1での3年目を迎えた角田裕毅がどう成長し、あるいはどこに課題があるのかを、F1ライター、エディ・エディントン氏が忌憚なく指摘していく。今回は、チームメイトがニック・デ・フリースからダニエル・リカルドに代わることが、角田にもたらす影響について考察した。

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 ハンガリーGPから、ダニエル・リカルドがアルファタウリで走ることが決まった。裕毅の才能が実際どれぐらいのものなのか、F1での将来がどうなるのかが、これから明らかになっていくだろう。

 私は角田のファンなので、今の彼は、遅いマシンで素晴らしい仕事をしていると思っている。走行中の態度も、そうでない時の態度も、今年大幅に改善された。ここで、マリオ宮川氏を讃えたい。優れたマネージャーが若いドライバーをどれだけ変えられるのかを、彼が証明したのだ。彼の力で、以前よりも裕毅の集中力が高まった。マネージャーの重要さをこれで多くの人たちが分かったことだろう。これからヨーロッパに来ようとしている若い日本人ドライバーの方々は、ここに注目すべきだ。ちなみに、私は時間的に余裕もあるし、必ずやお役に立てると思うので、ぜひ連絡を。

 本題に戻ろう。今年の角田の力を測るのは難しかった。ニック・デ・フリースに大きな差をつけていたが、それが角田が進歩した結果なのか、可哀想なデ・フリースがスランプから抜け出せずにいただけのことなのか、本当のことが分からなかったからだ。

2023年F1第11戦イギリスGP 角田裕毅とニック・デ・フリース(アルファタウリ)

 しかしハンガリーからデ・フリースに代わって、ベテランのリカルドがやってくることになり、状況は変わる。これからの半年、角田は、F1キャリアのなかで最大の試練に直面することになるだろう。昨年までピエール・ガスリーがチームメイトだった時には、角田はルーキーだったため、常にチームメイトの後ろにいても、問題視されなかった。しかしこれからの半年は、そうもいってはいられない。角田はすでにF1で3年目のシーズンを過ごしており、キャリアを継続するには、それ相応の力を見せつける必要がある。

 リカルドは、2016年と2017年にマックス・フェルスタッペンを打ち負かしたドライバーだ。今のリカルドにそれほどの力はないかもしれないが、2022年にマクラーレンでランド・ノリスにかなわずに挫折したころの彼でないことは確かだ。

ダニエル・リカルド(アルファタウリ)

 もし角田が常にリカルドに勝ち続けるなら、レッドブル首脳陣は2025年からセルジオ・ペレスの後任を務める候補のひとりとして考え始めることになるだろう。ところでヘルムート・マルコは今、ノリスに声をかけて、フェルスタッペンのチームメイトになるよう説得しているようだ。シルバーストンでマルコがノリスのマネージャーたちと話をしているところを、私は実際に見たし、マルコがノリスを褒めちぎっているのも耳にした。マルコは、自分が築いた若手プログラムのメンバーのなかに、ノリスほどの才能がある人材がいないと考えて、外部にアプローチしているのだろう。彼のこの行動から見ても、レッドブルの若手プログラムが、彼の気まぐれに支配されていることが分かる。老人の気分は一日のなかでもころころ変わるから、周囲が振り回されて大変だ。

 さて、角田にとって最悪のシナリオは、リカルドが最初から圧倒的強さで、予選でも決勝でも彼より良い成績を収めることだ。その場合は、来年は角田に代わって、今年日本で走っているリアム・ローソンがアルファタウリのシートに就き、リカルドとの比較で実力の評価がなされることになるだろう。

2023年F1第11戦イギリスGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 とはいえ、私としては、ここまで述べたふたつのシナリオが現実に起こるとは思っていない。どちらかが圧勝することはなく、ふたりは互角の力を見せるのではないかと予想しているのだ。その場合は、角田は来年もアルファタウリに残ることになるだろう。リカルドに関しては、もう1年残すか、ローソンと交代させるかを、マルコが決める。

 裕毅にとってこれからの時期は非常に重要なものになる。訪れるすべてのチャンスをつかみ、リカルドのデータから最大限のものを学び取らなければならない(リカルドは、技術的なフィードバックは得意分野ではないと聞いているが)。そして、政治的なゲームに巻き込まれることを避けなければならない。リカルドの太陽のような笑顔と陽気なジョークの裏には、大きな野心が隠れている。彼はF1キャリアを立て直すため、2025年にレッドブルに復帰することを狙っており、そのために角田を徹底的に打ちのめそうと、決意を固めているはずだ。

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筆者エディ・エディントンについて

 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちがあるのはバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。

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