社説:自動車保険不正 社内処分で済まされぬ

 テレビCMが頻繁に流れるおなじみの企業で、不正が横行していた。見逃すわけにはいくまい。

 中古車販売大手ビッグモーター(東京)が、自動車保険の保険金不正請求を繰り返し、道路運送車両法違反の疑いがあるとして、国土交通省が事実関係の聴取を要請したことが、分かった。

 同社の外部弁護士がまとめた調査報告書では、故意に車両を傷つけて修理代を水増しする不正行為が、全国各地の工場で行われていたと認定されている。組織ぐるみなのは明らかだ。

 斉藤鉄夫国交相が「(事実であれば)言語道断だ」とするのは当然である。

 同省では、各工場の不正を個別に調べ、違反を認めれば、所管の地方運輸局が民間車検場の指定取り消しなどを行う。

 全容の把握に努め、厳正に処分すべきだ。

 不正行為の疑いがあることは、昨年3月ごろの内部告発によって浮上した。損害保険会社がサンプル調査で確認し、同社に説明を求めていた。

 調査報告書によると、昨年11月からこれまでに、少なくとも千件以上の不正が見つかり、保険金の水増し額は、1台当たり4万円近くに及んでいる。

 不必要な部品の交換をしたり、塗装の品質を実際より高く偽ったりしていたとされる。また、ゴルフボールを入れた靴下を車両にぶつけ、損傷させるなどの悪質な行為もあったそうだ。

 背景には、修理を担う現場に無理なノルマを押しつけていたことが挙げられた。達成できない責任者は、上司の裁量によって降格処分になったという。このため、経営陣に忖度(そんたく)する企業風土が形成されたとも指摘されている。

 報告を受けて同社は、兼重宏行社長が報酬全額を1年間返上するなどの社内処分を発表した。しかし、それで幕引きとはいかないだろう。

 損保会社は、保険金の返還請求を検討する方針を示している。

 本来なら必要のない保険を利用して等級が下がり、保険料が割高になった契約者もいるはずで、対応を進めることにしている。

 同社にも、一般ユーザーの不利益を解消する取り組みを、率先して行ってもらいたい。

 国交省の調べによっては、刑事事件や消費者問題に発展する可能性もある。信頼回復は容易でないことを肝に銘じ、誠意を尽くしてほしい。

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