大会前に告げられたガン… 難病と闘う元エースが挑む高校野球“4度目の夏”

熱戦が続く夏の高校野球愛媛大会。高校球児にとって集大成ともいえるこの大会を、特別な思いで迎える球児がいました。

■夏の大会前に突如告げられた“血液のガン”

去年7月、夏の高校野球愛媛大会。愛媛県立宇和高校のベンチには、背番号1のユニフォームが掲げられていました。チームは6年ぶりに勝利しましたが、出場が叶わなかった選手への思いが込められていました。

宇和高校の3年生・富永一匠(とみながたくみ)君。実は今、4年目の高校生活を送っています。

富永君は去年の夏、野球部でエースナンバーを背負うはずでした。しかし、1年前の6月-。

富永君 「なんかよく息切れするなと思って…」

夏の大会を控える中、首に大きなしこりができ、うまく呼吸ができなくなりました。地元の病院に通うも原因がわからず、大分の病院に行き、そこで告げられたのが血液のガン=リンパ芽球性リンパ腫でした。

富永君 「まさか自分がガンになっているとは…。最初は驚きでした」

症状は様々で、発熱や体重減少のほか、リンパ節がはれて気管や臓器を圧迫すると呼吸困難になることもあり、最悪の場合、命に関わります。

宣告されたのは、それだけではありませんでした。

富永君 「夏の大会前ギリギリにチームに帰れるぐらいだと思っていて。その場で間に合わないと伝えられて、実感が湧いてないけど涙も出ました」

幼稚園の年長から13年間続けてきた野球。両親にとってもつらい宣告でした。

母・亜紀さん 「理解が追い付くよりも涙が止まらなかったのが一番です」 父・光一さん 「本当に悔しかっただろうと思うんですけれど『分かりました』って言ったので、どうしようとか言うこともなく…」

■一時は心肺停止状態に… 入院生活を支えた大好きな野球

去年7月上旬。手術や入院を経て、愛媛の病院に移るため船に乗ろうとしたその時、富永君はその場で倒れ込んでしまいました。

富永君 「呼吸ができなくなって…。そこから記憶がないんですけど」

一時、心肺停止状態となり、ドクターヘリで大学病院に救急搬送されました。一命をとりとめたものの、病院に到着後も眠り続けました。

父・光一さん 「目が覚めるかもわからないし、障がいが出る可能性もある。障害が残ってもちょっとぐらい記憶がなくても、とにかく目を覚ましてくれたらいいと思っていました」 母・亜紀さん 「もう祈って待つだけで、治療がどうにかうまくいってほしいなと思って…」

3日後、富永君は目を覚ましました。

富永君 「これからどうなるんだろうって不安でしたね。窓から外を見て一日過ごしていました」

そんな中でも励みになったのが野球です。

富永君 「野球のこととか、自分が野球をするイメージとかをして気分を上げるというか。少しでも楽しい明るい感じになれました」

入院している間、チームは夏の大会を闘っていました。

富永君 「携帯でメッセージを確認したら『勝ったよ』と。良かったなと、みんな頑張っていたんだなって」

8か月にわたる入院のため学校を休学しましたが、この春、日常生活が送れるまで回復し、宇和高校に戻ってきました。

■試合には出られなくても… 富永君の“4年目の夏”

富永君は再び、野球部での活動を始めました。

日本高野連の規定では、大会への参加資格があるのは3年間のみ。4年目となる富永君は、大会に出場することはできません。それでも-。

富永君 「ずっと野球をできていなかった分、今は自由にやれているので、それが楽しいです」

体力が落ちているため以前のように体は動きませんが、週に4日程度、自分のペースで参加しています。

夏の大会まであとわずか。大会に向け、自分の体調と向き合いながら後輩たちのサポートを続けています。

宇和高校野球部 井上廉キャプテン 「(富永君は)いつも冷静、クールでいろんな角度で物事を見れるので、そういう視点もあったんだと気づかせてもらえたりとか、適切なアドバイスをくれるので、すごく心強い先輩です」
富永君 「絶対いい試合をできると思うので、自分の得意なところとかを伸ばして頑張ってほしいなと思います」

去年は病室で迎えた夏。それでも忘れられなかった野球。

今年、病と闘い続ける彼は、チーム一番のサポート役として4年目の夏を迎えます。

富永君 「初めて自分が関わっている試合を外から客観的に見られそうな気がして、出られないけど大会は楽しみ。去年楽しめなかった分を精いっぱい楽しめる夏にしたいなと思います」

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7月14日、宇和高校は夏の大会の初戦を迎えました。相手は新居浜工業。富永君もスタンドから声援を送りました。

1点を追いかけるチームは9回裏、同点に追いつき延長戦へ。

しかし、10回タイブレークの末、勝利を収めることはできませんでした。

試合後…

泣き崩れるチームメイトと握手を交わし、少し涙ぐんだ様子を見せた富永君。

富永君
「楽しい夏だった。みんなが頑張ってくれて嬉しかったし、高校野球のお陰で野球が好きになれた。大学でも野球を続けて、次こそは自分がグラウンドに立って精一杯プレーできるように頑張りたい」

富永君は新たな目標に向け、進み始めています。

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