米電気自動車(EV)大手テスラは20日、マレーシア進出を正式に発表した。首都クアラルンプールの商業施設で、先週から予約を受け付けている中型スポーツタイプ多目的車(SUV)「モデルY」を公開。同施設内にテスラ独自の急速充電器「スーパーチャージャー」も設け、稼働させた。中間層にも手が届く価格設定となっており、人気を得るのは必至だ。
テスラの現地法人、テスラ・マレーシアはスランゴール州サイバージャヤを本社とし、サービスセンターも併設する。進出に先立ち、テスラは先月中旬にサイバージャヤで採用面接を実施。販売アドバイザーやカスタマーサービスなどの職種に数千人が応募したと報じられた。
サイバージャヤのほか、全国の主要都市にショールーム(エクスペリエンスセンター)を開設し、充電インフラも整備する。テスラの地域ディレクターであるイザベル・ファン氏によると、20日に進出記念イベントを開催したクアラルンプール中心部の商業施設「パビリオンKL」に充電器8台を設置。同施設を運営するパビリオン・グループのほか、不動産大手のサンウエー、同クイル・グループ、マレーシアン・リソーシズ・コープ(MRCB)、ガムダランドなどと充電器の設置で提携する。先にファン氏と面会したジョホール州のオン・ハフィズ・ガジ州首相も、同州で「スーパーチャージャー」を整備する意向を示している。
■日系のセダンやSUVと競合か
テスラはマレーシア市場でまず、中型SUVの「モデルY」を投入。近く、中型セダンの「モデル3」も販売すると明らかにした。
テスラはマレーシア進出にあたり、政府が推進するEV振興策「バッテリー式電気自動車(BEV)グローバル・リーダーズ・プログラム」の適用第1号となった。同プログラムの適用で、テスラはブミプトラ(マレー系と先住民系の総称)企業との提携なしに自動車の輸入許可(AP)が付与され、独自の自動車輸入販売を認められる。
モデルYは14日に予約の受け付けを開始。一部では1万台が予約されたという情報も飛び交っていたが、テスラのファン氏はこれを否定。現時点での予約注文数については明らかにせず、「モデルYへの関心は高い」と述べるにとどめた。納車は来年初め以降になる予定という。
モデルYはテスラ初の大衆市場向けSUVとして開発されたモデル。5人乗りで、マレーシアではモデルY(後輪駆動モデル)、モデルYロングレンジ(長距離モデル)、モデルYパフォーマンス(高性能モデル)の3グレードを発売する。価格はモデルYが19万9,000リンギ(約600万円)、モデルYロングレンジが24万6,000リンギ、モデルYパフォーマンスが28万8,000リンギとなる。3万2,000リンギの追加費用を支払えば、自動運転機能をつけることも可能だ。
自動車業界のアナリストはNNAに対し、モデルYの価格設定は「中間層が好んで購入する日系メーカーのセダンなどと比べても妥当だと言える」と指摘。今後、モデルYと競合する可能性が高いモデルとして、ホンダのセダン「シビック」や「アコード」、マツダのSUV「CX30」、韓国・現代自動車の小型SUV「コナ」、中国の比亜迪(BYD)のEVを挙げた。
■政府、EV振興急ぐ
東南アジアでは、マレーシアだけでなくインドネシアやタイ、ベトナムなど各国がEVなど次世代自動車の域内ハブを目指してしのぎを削っている。
マレーシア投資開発庁(MIDA)によると、2018年から今年3月までに、政府はEV関連で58件(総額262億リンギ相当)の投資案件を承認した。事業分野としてはEVの組み立て生産や部品の供給、充電インフラ関連サービスなど多岐にわたる。
マレーシア政府は、30年までに自動車販売台数の15%をEVとハイブリッド車(HV)とする目標を掲げる。振興策の一環として、25年末までEVの輸入税・物品税、道路税を免除する。政府の取り組みが奏功し、欧州系の高級乗用車メーカーから中国の新興メーカーまで、複数社がマレーシア市場でEVの投入を始めている。
EVの増加に合わせて、政府はインフラ整備も急ぐ。25年までに国内1万カ所に充電器を設置する計画だ。また、充電設備を自宅に設置したり、サブスクリプションプランに加入したりしたユーザーは、23年度の個人所得税から関連費用が最大2,500リンギ控除される。
優遇策が浸透してきたこともあり、マレーシア自動車協会(MAA)のデータでは国内の22年のEV販売台数は2,631台と、21年の278台から急増した。