女子W杯開幕で思うFIFAの問題点/六川亨の日本サッカー見聞録

[写真:Getty Images]

女子のW杯が20日に開幕し、地元ニュージーランド(FIFAランク25位)が優勝経験もあるノルウェー(同12位)を1-0で倒して白星発進した。試合は地元の大声援を受けたニュージーランドが押し気味に進め、後半3分にGKが起点となったカウンターから最後は大型FWのウィルキンソンが決勝点を決め、大会通算16試合目(5大会連続6回目の出場)でうれしい初勝利を奪った。

試合の模様はNHKのBS1で視聴したが、一時はテレビ中継が危ぶまれたのは記憶に新しいところ。元々の元凶はジャンニ・インファンティーノFIFA会長が、出場国を前回19年大会から8チーム増の32か国に増やし、賞金を約43億円から3倍増の約158億円に増やしたことで、放映権も大幅にアップしたことだった。インファンティーノ会長は男子のW杯と同じ扱いにしたかったようだが、それはいくら何でも「時期尚早」と言わざるを得ない。

結局、ヨーロッパも日本のテレビ局もかなり低い金額で契約したようだが(金額は不明)、テレビで見る限り、スタジアム内の広告ボードもアディダスやコカ・コーラ、マクドナルド、VISA、QATAR Air、WANDAといった男子W杯でおなじみの常連が並んでいた。こちらの金額も、もちろん不明だ。

かつてFIFAはというか、ジョアン・アベランジェ元会長は、W杯で得た利益をU-20やU-17といったアンダーカテゴリーの大会に投資することで競技人口の裾野を拡大し、選手の育成と発掘にもつなげてきた。U-20W杯(当時はワールドユース選手権)は79年に第2回大会が日本で開催され、ディエゴ・マラドーナが世界的なデビューを果たしたし、93年にはU-17W杯の第5回大会が日本で開催された。女子のW杯も、世界的な位置づけとしては似たようなものだろう。

それをアメリカが男子と女子の報酬を同一にした(イコール・ペイ)からといって、W杯にも当てはめるのは性急すぎる。だいたいアメリカでは男子代表の16~18年の試合収益は、女子の収益よりも下回る(女子が71億1200万円、男子は69億8600万円。毎日新聞7月15日紙面を参照)。実力に見合った結果となっているのだ。

アベランジェ元会長は、会長選の公約に掲げていたアフリカとアジアの出場枠を拡大するため1982年のスペイン大会から参加国をそれまでの16か国から24か国に増やした。アフリカとアジアの増枠に対し、当時はW杯のレベル低下を懸念する声もヨーロッパや南米からあった。そんな声に反発するように初出場のカメルーンは前回優勝のイタリアと1-1で引分けたし、アルジェリアは西ドイツに2-1の勝利を収めて世界を驚かせた。

その一方で北中米・カリブ海のエルサルバドルはハンガリーに1-10と大敗し、これは今なおW杯における最大差敗戦試合として記録に残っている。FIFAランクは当てにならないものの、今回の女子W杯には77位のザンビア、72位のモロッコ、54位の南アフリカ、52位のパナマ、46位のフィリピンなどが出場する。参加国が増えることは悪いことではない。チャンスが広がることで希望も膨らむ。しかしそこには“適正"な判断が伴っているのかどうか。

アベランジェ元会長は82年スペイン大会で24か国に増やし、1998年のフランス大会からは32か国に増加して勇退した。在任中はサッカー後進国と言われたアメリカや日本と韓国でW杯を開催するなど、その後の南アフリカやカタールに希望を持たせた。

ところがインファンティーノ会長は、次回26年大会から16か国も増やし、現行の32か国から48か国の大会にした。開催国もアメリカ、カナダ、メキシコの3か国共同開催というこちらも前代未聞の大会にした。そもそも32か国にした時点で、開催能力のある国は限られた。ヨーロッパで単独で開催できる国は、イングランド、ドイツ、フランス、スペイン、ロシアくらいではないか。イタリアはスタジアムの全面改修が必要になるだろう。

肥大化する男子のW杯に加え、女子サッカーの性急なマーケットの拡大とそれに伴う放映権料の高騰。本来なら、まだまだFIFAは女子サッカーの普及と認知に投資すべきではないか。

誰かインファンティーノ会長の暴走を止めて欲しい。来年でJFA会長を勇退する田嶋幸三氏に期待するのは、その1点でもある(AFC選出のFIFA理事は今年2月に3選を果たし27年まで務める)。


【文・六川亨】

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