商品開発AIがデビュー 「えっ、この原料を?」 先入観と無縁、新たな可能性広がる サッポロビールがRTDで着手

これがAIの生み出した味――。さまざまな分野で急速に活用が広がる人工知能(AI)が、酒類の開発現場にも進出してきた。

7月4日、サッポロビールから数量限定発売された「サッポロ 男梅サワー 通のしょっぱ梅」。国内ビール業界初の、AIを活用して開発した缶チューハイだ。

「男梅サワー」ブランドが発売10周年を迎えるのを機に、新たなチャレンジを模索していた。

「今までできなかった『しょっぱいうまさ』を高めたフレーバーでブレイクスルーできないかと考えた。実は一昨年にも一度トライしたものの、ブランド本体との差を出すのが難しかった」と語るのは、ビール&RTD事業部で同ブランドを担当する岩佐拓幸氏。あきらめきれず、もう一度何かできないかと考えていたという。

そこで今回初めて取り入れたのが、同社と日本アイ・ビー・エムが共同開発した商品開発AIシステム「N-Wing★」(ニュー・ウィング・スター)。昨年11月に本格実装し、このほどデビューを飾った。

このシステムでは、これまでの商品化で検討した配合や原料情報を含む膨大なレシピを学習。開発したい商品のコンセプトや必要な情報を入力すると、原料の組合せや配合量を瞬時に予測し、推奨レシピを出力する。普通に考えても思い浮かばないような、原料配合のヒントが得られるという。

人間がとらわれがちな先入観とは無縁のAIの特性が、今回さっそく発揮された。

「塩分量を増やすと缶が腐食するおそれがあり、塩を使わずにしょっぱさを増す必要があった」。開発を担当した、商品・技術イノベーション部の永安弘樹氏が説明する。

「『しょっぱい』という味覚は塩から来るものなので、別のもので代替するのは難易度が高い。普通なら塩っぽさを感じさせる原料を考えがちだが、AIが提案したのは全然違う原料。少なくとも私には全く思いつかなかった」。

提案されたのは、通常なら清涼感に寄与するフレーバーだ。半信半疑で使用してみたところ、従来と塩分量をほとんど変えずに、梅干し感やしょっぱさを強化することに成功した。

「人間には先入観があり選ばない原料でも、AIは躊躇なく出してくる。これまでの開発とは大きく違うところだ」(永安氏)。

人間との共同作業で効率化

「サッポロ 男梅サワー 通のしょっぱ梅」(サッポロビール)

今後、RTDの開発では同システムを積極活用する方針だという。

「たとえば『サッポロ 濃いめのレモンサワー』などでも、すっぱさを高めるために酸味料を足す以外の提案が出てくるかもしれない。先入観なくいろいろな可能性を示してくれるのは大きい。わくわくしている」。岩佐氏は目を輝かせる。

とはいえ、開発を丸投げするわけではない。目指すのは、人間とAIの共同作業による効率化だ。

「AIが商品をすべて作ることは今のところ考えていない。最初に出てきた試作品から、よりイメージに近いものにブラッシュアップしていく。両者が共創していく形が、いま目指すべき姿ではないか」(同氏)。

中味の開発にとどまらず、商品企画やプロモーション、パッケージデザインへの活用の可能性も広がる。

「経験則に頼らずどんな人でも一定のアウトプットができて、早く成果が出せるようになれば、AIの活用の幅は広がる。新しいことを生み出すために時間を割けるようになるので、人にしか創れない価値を生み出すことに挑戦したいと社内でも話している」。

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